関東地区 活版印刷見学会

欧文組版ワークショップと講義を通じて、欧文やスペーシングに関する知識を得ることを目的に、20〜30代の若手を中心とした活版印刷体験セミナーを開催しました。

実施日時:2019年9月28日 13:00~18:00
講師:高岡 昌生氏(有限会社嘉瑞工房 取締役社長)
場所:印刷博物館

(1)ワークショップ【組版3ステップ、活版印刷体験】
■組版3ステップ

Universe medium フォントの金属活字を使用しています。溝が彫り込んである面を上にして自分の名前を順に入れていきます。
すると、ちょうど水面に映したような形で、自分の名前が並びます。

0.5pt、1pt、2ptのスペーサーはアルミ製で破損しやすいため、ptが大きいスペーサーと名前の間に入れていきます。

2ステップ目は、0.5ptから24ptまでのスペーサーを使用し、感覚ではなく自分なりの根拠をもって字間のバランスを整えます。

私の名前の場合、“I”のスペースがひときわ詰まっているので、スペーサーを入れることにしました。スペーサーを手に持つと繊細に小さく感じ、初めは意図したスペースよりも大きく空けすぎてしまいました。パソコン上ではキーひとつで簡単に伸縮できますが、活版では字間を広げる事しかできません。姓と名で違ってくる印象のバランスを合わせることが、難しくも面白いポイントだと高岡さんに教えていただきました。

全体のバランスを見ながら13文字の字間を整えなくてはいけないため、非常にやりがいがありました。1時間半立ち通しの作業は運動不足の体には不安でしたが、作業に没頭すると、3ステップをやり終えても30分程度しか経っていないように錯覚するほどでした。

■活版印刷体験

アダナプレスは、レバーの押し方をコントロールすることで、インク付けから紙への印字まで手軽に行うことができる活版印刷機です。一度目・二度目はレバーを押し切らず戻すことで、インク肉の上を通ったローラーが組版の上を通りインクを乗せてくれます。三度目にレバーを押し切ると、組版と紙が密着して印字される仕組みです。おもちゃを彷彿とさせる愛らしい見た目とは違い、プリンターで印字した以上にはっきり美しくインクが乗った印刷物が出来上がり、嬉しい驚きでした。

 

(2)活版、欧文組版についての講義

■様々なWとその理由

Wは書体によって様々な形があります。現在から約2000年前に彫られた「トラヤヌス帝の碑文」という石碑は、当時から既に使われていたローマ字で記されています。これには、U、W、J、K、H、Y、Zの7文字がありません。この7文字はそれ以降の2000年の間に生み出された新しい文字とのことです。そのため「2つのVを重ねた形」や「2つのVをくっ付けた形」など、書体デザイナーの解釈の違いによって形状が違うWが生まれました。

 

(3)学芸員によるプロムナード案内
プロローグ展示ゾーンでは、宗村副館長より、活版印刷の歴史についてご説明いただきました。ここには歴史の変遷と合わせてレプリカ資料が多数展示してあり、甲骨文字に始まり日本に活版印刷文化が訪れるまでの歴史の概要を学びました。高岡さんの講義資料としても登場した「トラヤヌス帝の碑文」のレプリカもあり、文字通り歴史に触れて学ぶことができました。

 

(4)総合展示ゾーン見学、交流会
その後、総合展示ゾーンでの自由見学も行いました。世界最小の印刷本や錦絵の多色刷り、写植の仕組みまで、好奇心が刺激される資料がぎっしり詰まった展示室でした。

活版印刷に関する様々な知識に触れ、非常に充実した5時間を過ごすことができました。とりわけワークショップは、仕事に活きてくる貴重な体験でした。講師の高岡昌生さん、印刷博物館の宗村副館長、ご参加いただきました皆様、誠にありがとうございました。

レポート:関東地区 徳本晃子

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