大
中
小
文字サイズの変更
Japan Sign Design Association Official Website

SDA賞SDA賞

第45回(2011年)SDA賞 受賞作

審査評

横田保生
社団法人日本サインデザイン協会会長
SDA賞審査委員長
東日本大震災があったにもかかわらず、今回のSDA賞募集は過去最高の応募数であった。
不景気が長引く中でもサインデザイナーの奮闘が感じられる審査会であった。
SDA大賞を受賞した「JR西日本博多駅サイン計画」は公共サインシステムへの時代的な要求に応え、細部にまで良く目の届いた高品質なサインであった。ここ20余年にわたって開発されてきたJR各社サイン計画と基本的な案内誘導構造は変えていないが、省エネやバリアフリー等への対応は高いレベルで成就している。また、駅舎天井高の低さをも逆手にとって、吊り下げや突き出しサインを使わずに、空間構造と一体になった表示方法も見事である。
 最優秀賞となった「近畿大学 建築学部」のサインは美しいサインである。案内誘導の観点から言えば、入口に敢えてEntranceと表記することの不自然さは拭えないが、このサインはむしろ学舎の環境形成の要として機能している。また、「東急キャピトルタワー サイン計画」は、もてなしを伝える記号として折形を採用し、さりげなく表示面に出現させることでその心を伝えている。さりげなく、しかし奥深くその施設理念を造形化出来た秀作であった。
今年も、D類(空間・環境表現サイン部門)への応募数が特に多かったが、この部門の最優秀賞は「mt ex 京都」であった。マーキングシートの狭間をついて空間領域にマスキングテープが躍り出てきたというとろか。近年マスキングテープの新しい価値として装飾や演出に的を縛った提案が多く行われているが、空間演出に対応出来る素材であることを分かりやすく示した。一方、訴求機能偏重の評価基準が重きを成す屋外広告に対して、その美しさや、景観との調和等の重要性を説く「景観広告ガイドライン及び、屋外広告物のデザインと印象評価に関する研究」にSDA賞特別賞が与えられた。この他にも、今年の応募作品の中には、多数の知恵が詰まっている。これらのサインの知恵が震災復興の一助となることを願ってやまない。
青木 淳
株式会社青木淳建築計画事務所
 3月に大震災が発生して、デザインというものの意味が、突然、変わってしまったように感じてしまったのは、なにもぼくだけではないだろうと思う。それまでも、いかにもデザイン、という感じデザインは、「デザインされている」ということを感じさせることによって商品価値を上げようという魂胆が透いて見えて、ぼくはちっとも好まなかったけれど、壊滅的な被害を前に、そうした意味でのデザインは、一瞬にして、とるに足らない、浅薄なものにまで、色褪せてしまった感じがしたものだった。
 そんなわけだから、今回の審査に臨んでのぼくの最大の関心は、こうした感覚のなかで、いまどんなタイプのデザインをぼくたちは推すことになるのか、ということだった。そして、大賞が博多駅のサイン計画。もちろん、その内容がすばらしいから大賞として顕彰されたことは言うまでもないことだけれど、やはり、駅という、商業的価値を高めるというよりは、公共的価値を高めることを目標としている空間が舞台であったことが、審査員の強い支持につながったのではないだろうか。ぼくたちが生きていることにベーシックなところで関わるところまで戻って考えてみよう、という気持ちの現れ、というような気もする。
 いっぽう、考えさせられたのは、「mt ex 京都」、養生テープのディスプレイ。世の中には、ただ機能的であることを徹底し、人に見られることを意識していない物があって、だからこそ、ときにハッとする美しさを放つような物がある。養生テープはそのひとつ。これはその美しさをアピールする展示である。新機軸の物というのではなく、ぼくたちのまわりにあって、でも、ふだん見落としている物のなかに美しさを発見しようとする姿勢が、やはり震災後の感覚なのだろうと思った。
佐藤 卓
佐藤卓デザイン事務所
  本来であれば具体的な審査評というものをここに書かなければならないが、ここでは敢えて今触れなければならないと思っていることを優先させていただきたいと思う。このことを、どうかお許しください。
 それは言うまでもなく東北大震災、そして津波により引き起こされた原発の問題をきっかけに思うことである。このことは、本来の人の豊かさとは何かを本当の意味で考えるきっかけを与えてくれた。エネルギー問題や環境問題など、このままでいいのだろうかと問うことは、震災以前から求められてきたことである。そのことに対して絵空事を言っていられない状況に追い込まれたと言ってもいいだろう。戦後日本は資本主義社会を加速させ、そこに民主主義と新自由主義が疑う余地なく絡み合って、個人のわがままが許され便利な社会を謳歌するようになった。何より不便であることよりも便利であることが優先された。そのうち、我々は蛇口の水がどこから来るのかも、食べている物や使っている電気がどこで作られているのかも知らないで過ごすことがあたりまえになった。そしてこの状況に対して、有り難いと思う気持ちすら失ったのである。今、様々なことに対して、このままで本当に日本はいいのだろうかと問う必要があると思うが、私はまず我々が無防備に受け入れてきた「便利」というウイルスにも似た概念を、今一度疑ってみる必要があると思っている。「便利」とは言い換えれば身体を使わないということ。これは身体の機能を明らかに低下させることを意味している。何も、便利を真っ向から否定しているわけではない。便利になることによって失うものがあるということだ。これはサインデザインを考えるうえでも大きな問題である。つまり、無いよりも有った方が便利であるという安易な考え方から生まれる劣悪なサインが街に蔓延っている。ここに出品されてくるような志の高い仕事よりも、リアルな社会が実は厳しく審査されるべきだと思うのである。
下川一哉
日経BP社
日経デザイン編集長
本アワードの審査を重ねるごとに感じるのは、サインデザインの領 域の広がりと役割の深化である。サインデザインはグラフィックデザ インをベースとしながら、空間という3次元のナビゲーションを全う するという機能に始まり、空間を有するコミュニティーや企業のアイ デンティティーまでをも表現する機能を求められている。「mt ex 京都」は、企業の新規事業を空間の中で表現する際に、サインデ ザインの手法を応用した例と言える。サインデザインの今後の機能や 表現方法を考えるうえで、一石を投じた作品として評価したい。
井原理安
社団法人日本サインデザイン協会 常任理事
美しいデザインは人の心を豊かにすると同時 に美しい心になれる。第45回SDA賞の作品 を眺めながら思うことは、人は誰しも美しい空間にいたいし、美しいものを見ていたいし 、美しいものに触れていたい。殺伐とした社 会であっても、貧窮の世の中であっても豊か な心でいたいし、美的なマインドを持ち続けたい。当然ながらサインは『案内』『誘導』 『表示』といった一連の行動によりその機能 が発揮されるシグナル系のサインと、文化的 象徴というか、美の本質であるかも知れないシンボル系のサインに二分化される。そして現代のサイン環境は沢山のサイン類が設置さ れ放射線のように『告知』され、網の目のように交錯している。このことはサイン環境自 体が視覚的、合理性の高い一面であることを 意味している。そういった視点で今年の作品 を見てみると、近畿大学 建築学部の『気づ きのサイン』は空間や情報をにわかに感じる サインという点では感性豊かな学生活動を過 ごせる。そして、建築空間にサインが阻害し ないように赤のアクセントカラーでさりげな くメッセージとして美しく語りかけている。 東急キャピトルタワーのサインは実際に紙を 折ってできた形状が従来の案内サインや誘導 サインと違ってそれぞれの場所性を考慮した美しい造形サインである。小金井市民交流セ ンターの空間グラフィックは小金井市の地形 的特徴のある緑地、川、坂など、そのものの 形を造形的にデフォルメしたデザインを建築 空間にモノトーンの色彩で美しくリズミカル に表現され、小金井の魅力が感じとれる。
武蔵野美術大学、美術館 図書館のサインは 図書分類法による数字のサインであるが、巨 大でアートとも想わせる数字の造形が書架な どに大胆に設置されている。床には方向性を 示す分類数字が書架へ導いてくれる、明快で 分かりやすく、アート性をもった美しさが心を豊かにしてくれる。
大賞に輝いた、JR西日本博多駅サイン計画は だれにでも分かりやすいカラーゲートシステ ムである。色々な階層の大勢の人々が行き交 いするラッチ内コンコースにおける誘導する サインとしてダイナミックで分かりやすい。 このゲートを通らないと、あなたは目的地に 行けませんよ!安全でスムースに行動を促す 公共空間のサインとして優れている。その他沢山の優れた作品があり来年度のSDA賞が楽しみです。
定村俊満
社団法人日本サインデザイン協会 常任理事
 住宅街の向こうにそびえ立つ巨大なチョコレート。目を疑う光景が高槻のまちに出現した。優秀賞のビッグミルチである。丹念に手作りされた42粒のチョコは、JR線沿いにある明治の工場で数週間かけて組み立てられた。徐々に姿を現すチョコレートの壁は、ウエッブやマスコミを大いに賑わせたという。確かにおいしそうな色彩や質感など、ディテールにも手を抜いてない。アイデアを出した方の「ユーモア」、実施を決断した方の「勇気」、さ らにこれを本気で製作した方の「乗り」に脱帽である。審査するだけで元気をいただきました。完成した時の近所の子ども達の顔が見たかった!
大賞はJR西日本博多駅サイン計画である。この作品には鉄道駅の情報計画における課題がいくつか見える。そのひとつは新幹線の図記号表現である。JR各社は自社が開発した新幹線車両の形を模したピクトグラム?をそれぞれに採用している。日本中の駅に何種類の新幹線マークが掲示されているのだろうか?もうひとつの課題は色彩の標準化である。博多駅では乗車系を青、降車(出口)系を黄、在来線乗り換えを赤としている。色彩の国際ルールはないが、乗車系の青または緑、出口系の黄、禁止警告の赤が経験則的に普及している。特に空港施設では世界中でこのルールが広く採用されている。博多駅では赤が乗り換え色とされており、これはJR九州のコーポレートカラーに由来している。青がコーポレートカラーのJR西日本から、赤のJR九州への乗り換えという意味の記号化である。鉄道の「利用情報」と、自社の新幹線、色彩というJR各社の「広告情報」が混在し、標準化を妨げている。これは日本中の鉄道駅で日常的におこなわれている悪習である。いま鉄道のサイン計画で最も求められるのは、情報コードの共通化ではないだろうか。利用者は、JRはひとつという認識を普通に持っている。
島津勝弘
社団法人日本サインデザイン協会 副会長
 今年度は、震災後の影響などから応募状況に関して心配ではありましたが、これまでの最高となる応募数となり、安堵して審査を行うことが出来ましたが、その分多くの作品からの絞り込みにも苦労し、例年以上にカテゴリー別の応募数にも大きなバラツキが出て、特にD類の作品数の多さに改めて審査基準を考えることになった審査会でもありました。
 今年、第45回SDA大賞を受賞した「JR西日本博多駅サイン計画」は、これまで同じ企業グループでもサインシステムの規格のバラツキなどが議論されることも多く有りましたが、この博多駅の空間のサインシステムや駅空間のデザイン展開は、これからの新しい規格となりうる予感を感じるデザイン性と、機能性、省エネ性など、震災後の節電による暗くなった都内の駅空間を見ていると、これまでの過剰に明るかったことに気づいた人々も多いと思いますが、ただ機能が失われた節電ではなく、適正な明るさを保ちながら、美しい駅空間を感じるデザインが求められる訳で、大賞を受賞した博多駅のデザインは、まさに今のこの日本の状況に求められるデザインであると思いました。
 最優秀賞を受賞した3作品の中で、「近畿大学建築学部」、「東急キャピトルタワー」の2作品は、デザインの美しさと合わせて、コンセプトがしっかりしたデザインとして評価を受けることに、また「mt ex 京都」のような限られた条件とコストのなかでも、ここまでの広がりを見せる展示空間に仕上げたデザインには、これからの時代を感じる光るものが有りました。
 その他、優秀賞や奨励賞の受賞作品を見ていると、街や景観に与える印象を企業として努力している取り組みや、社会に価値を見いだすために何が出来るのかを見いだしている取り組みなど、未来に向けでデザインが持つべき意味と、新たな広がりをあらためて感じさせていただいた審査会でもありました。
武山良三
社団法人日本サインデザイン協会 常任理事
 大賞には、いつにも増して高いレベルの候補作の中から「JR西日本博多駅サイン計画」が選ばれた。鉄道駅のサイン計画という厳しい制約がある中で、建築空間と緻密に調和した一貫性のあるデザインを実現したことが評価された。カラーボーダーを用いたサインデザインは、照度を抑えることで視認性・判読性を高めると同時に、駅という往来の激しい空間を、落ち着いた雰囲気にすることに成功していた。
 B-2類の最優秀賞である「東急キャピトルタワーサイン計画」も規模が大きく、ホテルのシステムサインというほぼ確立されたジャンルにおいて、新たな可能性を提示した好作品であった。「折り」をコンセプトに面をカットした造形は、シンプルなデザインの中に熟練の技を感じさせてくれた。
 「ビッグミルチ」の巨大な壁面サインは、関西地区審査会で上位賞間違いなしとの評価を得てD類優秀賞となったが、それを抑えて最優秀賞となった「mt ex 京都」には、さらなる衝撃を感じた。地方で工業用のマスキングテープをつくっていた同社が、ユーザーからのメールをきっかけにデザイン性の高い商品をつくるようになり、ここまでの展示会をできるようになったことは、地方の中小事業者に大きな刺激を与える作品と評価された。
 最後になったが、「京都ヨドバシビル」がD類奨励賞を受賞した意義も大きかった。これまで各地で問題を指摘されてきた同店が、ファサードサインを大幅に改善したほか、建物裏手壁面の緑化を行い、駐車場の入口は町屋のようなデザインを採用していたからだ。ここまで景観に配慮した店舗をつくったことは、京都市だけでなく他の景観保存に力を入れている地区等へも影響を与える事例と期待された。私の中ではもうひとつの大賞としたい作品だった。
宮崎 桂
社団法人日本サインデザイン協会 副会長
 今年のSDA大賞は、提出パネル36枚という圧巻の「JR西日本博多駅サイン計画」であった。博多駅はJR九州かと思いきや、サインの発注者はJR西日本らしい。いずれにしても交通の大拠点のサイン計画としてSDA賞のグランプリの座にみごとにあてはまるような大作であった。
 最優秀賞の「mt ex京都」は、マスキングテープの展示会で、廃校をつかってのインスタレーションが企画力表現力ともに新鮮であった。提出写真が美しく、独特の空気感が漂っていた。サインデザインはその性格からどうしても人の役に立つという正義感を伴ったものが評価されやすいが、そうした評価軸から外れながらもなお最優秀となった。
 優秀賞の「ビッグミルチ」は、これだけ大規模なビルボードをここまでお金をかけてよくやったと思わせる圧倒的なインパクトがあった。環境破壊との意見もないわけではなかったが、クォリティーは格段に高く、大賞にも匹敵する作品だと思う。「武蔵野美術大学図書館サイン計画」は表現性、造形性という意味ではたいへん優れている。惜しむべくはサインが主役になりすぎ、空間との呼応にいくぶん問題を残したことだ。
 入選作品では「JR北海道旭川駅サイン計画」、木を使った駅舎が美しい。サインは駅舎の環境をそこなうことなく調和しており、空間全体を評価したい。「渋谷区文化総合センター大和田サイン計画」は、黒板に見立てたサインボードやチョークの線の表現がかわいい。とかく堅苦しくなりがちな公共施設で、こうしたなごやかな表情のサインができたことを評価したい。
 D類では、スリッパを花に見立てたディスプレイ「S・D・S FLOWER WORLD」、未熟ではあるが、単純でキュートな表現が商品の持ち味を引き出している。「マンゴツリーカフェ池袋」は、スーパーローコストのリノベーションとして、ひたすら文字と色だけで空間を演出した徹底ぶりを買った。「山の稜線 水源豊かなやまのふもとの温泉施設シンボル」は、一枚の鉄板を折り曲げたような造形とスケール感がよかった。
 サインはそのものの魅力もさることながら置かれる場とどう向き合うかが大きなポイントである。空間のつかみ方、本体や表示の造形、テーマやモチーフの新鮮さ、人との関わり、それらが総合して優れた作品となる。審査会では、今後もありきたりでない行き方、表現を見つけ出し、自らの視点で評価していきたい。
宮沢 功
社団法人日本サインデザイン協会 常任理事
SDA賞も45回目を迎え、作品の質も年を追うごとに高くなり評価基準も厳しくすることが要求される。今年の審査で感じたことは参加型、時間経過を意識したものが目に付いた。学生が共同して環境づくりをした「同志社CHANGEプロジェクト」、時間とともに情報が付加される「変化する仮囲い」、色彩表記のCMYKをアドレスとしてサイン機能と色彩に対する理解を深め、環境としての快適性を取り込んだ「富士ゼロックスR&Dスクエア“KURA”プロジェクト」、「わかりやすい」「楽しい」「気持ちよい」をテーマに、無機的になりがちな団地環境を明るく楽しいものにし、のびのびと成長する子供たちの様子や、住人達の明るい会話の様子が見えるような「シャレール荻窪団地」等、人の心に訴える情報として、サインの新しい機能を感じさせる作品に注目したい。他に、LEDの特性を活用し幻想的な新しい表現とした「テクニカフクイ新社屋」、5年間の姫路城修理に際し、国宝の修理状況を公開するという素晴らしい企画を素直なデザインで表現した「姫路城大天守修理見学施設“天守の白鷺”」、コンピュータ制御と多色表現で華やか一方のLEDを、あえてモノトーンで扱い、すぐれた映像デザインにより時刻表示と待ち合わせのランドマークとして成立させた「西武百貨店光の時計口」、厳しい広告規制の京都の景観に見事なじませた家電量販店サイン「京都ヨドバシビル」、キラキラ輝いて欲しいというコンセプトで自然の持つイメージをガラスにより美しく表現した「Spa Luccica」、個性的で質の高いシンボリック空間を作り上げた「豊洲キュービックガーデン」、商品のコンセプトイメージを組み立て式ショウルームとして情報表現した「MINI GINZA」等々、規模は小さいがオリジナリティにあふれた作品が目に付いた。
サインデザイン大賞を獲得した「JR西日本博多駅サイン計画」は、複雑なターミナル駅のサインシステムに施設カラーを設定し、暗めに設定した環境の中で、LEDを用いた光のラインを空間と一体に展開して効果的である。多くのターミナル駅は複雑で、一般的な表示のみではわかりにくく、色彩、光、建築と一体的な空間としてサインを機能させることは重要であり、多くの鉄道ターミナルのサインシステムの一つの方向を示したものとして評価できる。 
渡辺太郎
社団法人日本サインデザイン協会 常任理事
 近年SDA賞の審査を通して「サイン性」といったものの領域の幅の拡がりを感じると同時に、最終的に賞の分類のカテゴライズを超え一点大賞を選出するという最終審査の難しさを痛感する。昨年に引き続き今年も全くスタイルの違った作品が大賞候補に残り『JR西日本博多駅サイン計画』と『mt ex京都』が僅差で前者が大賞に選ばれた。前者はゲートに目的の違う(乗車/降車)色の光を効果的に配することにより、直感的に誰でも複雑な動線を迷う事なく誘える駅舎でのサインシステムとしては非常に優れ、なおかつJRでのサインの捉え方として今までの慣例を打ち破る新しい表現として評価された。まさに システムサインという評価では文句がつけようのない高水準の作品と言えよう。しかしながら個人的には惜しくも大賞を逃した後者『mt ex京都』の印象が鮮烈に残った。マスキングテープといった商品(モノ)を本来の用途や目的を超え、そのブランド性を空間を通して表現する今回の方法論は非常に斬新で、その「サイン感」は機能や解りやすさを凌駕すると同時に、感動をもって人々を魅了する。またその商品(モノ)を表現する場(空間)は、作者の用意周到に設定された完全な空間であり、この商品の最大の魅力である豊富なカラーバリエーションや透明性といったブランドイメージをその閉ざされた空間の中で、仮想化されたバーチャルな虚と実の境目を浮遊しながら一分の隙もなく構築している。優れた「サイン感」というもののひとつに「モノ(情報)」と「場(空間)」の絶対的な相性であるという事が言えるとすれば、この作品においてどちらが先にありきだったのかを見失うほど、その関係性は緊密で、この空間構成のインスタレーションはそれを見た人間が理屈でなく本能的にドキドキする楽しさに溢れている。
イメージ
ページの先頭へ