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SDA賞SDA賞

第42回(2008年)SDA賞 受賞作

審査評

井原理安
SDA 会長
世の中の流れが応募作品に表れているのだろうか、今年度はD類の空間・環境表現の部門への応募が多くディスプレイ、商空間、建築ランドスケープのファニチャー計画といった範囲まで多様化した作品が集まり審査員を悩ませた。しかしながら、これらの作品は次回よりますます増えるであろうし、SDA 賞の審査基準として新たな評価軸を検討する時期に達している。
もう一方で第42 回の応募作品で感じたことは、建物や施設を利用する人々に安全でわかりやすく「案内」→「誘導」→「表示」するといった一連の行動心理に基づいたサインのシステムがある。そして可変情報システムとしてのLED や液晶ディスプレイを用いたサインが多い昨今であるが、大賞を受賞した「WATER・LOGO」をはじめ、最優秀賞の「NICOLAS G.HAYEK CENTER 映像サイン計画」は伝えたいメッセージが記憶に残る作品である。特に大賞の「WATER・LOGO」の作品はダイヤモンドのような水玉が次々ときらめきながらこぼれ落ちるさまは目を見張るもので審査員満場一致で選ばれた。毎年優れた作品が多いが、今年、気になった作品は最優秀賞の「DIARY」で建築現場における仮囲いのデザインであるが、現場から出た破損材料をチップにして通行人へ展示するという建設会社の企業姿勢が見られたこと。また優秀賞の「やじるし」はキャンパス内における人を誘導する臨時的なスタンドサインであるが矢印の形自体をサインとし簡便に持ち運びができ、スタッキングが可能である。そして奨励賞の「七色の帆引き船」は従来の白い帆引船が七色の帆に変わり雄大な霞ヶ浦に浮かぶ姿はダイナミックで絵画を観る世界である。今日、刺激や感動を得る機会が少ない中であるが、もっと、もっとサインでを通じて人々に感動を与えることができればと思う。
青木 淳
株式会社青木淳建築計画事務所
私は、日頃、建築物の設計をしています。つまり、ちょうどサインが設置される器の側をつくっていることになります。その「器」の側から見れば、サインをデザインするということは、ほとんど不可能に近いくらい困難な仕事に思われます。というのも、サインは、人になにかを伝える(しかも間違いなく、正確に)ものですから、目立たなければなりません。
つまり、それは器である空間を「地」とした「図」でなければなりません。しかし、私の立場から言わせていただければ、空間もまた「図」です。だからもし、サイン・デザイナーがその空間をリスペクトされるなら、きっと建築が「図」であることを保ったまま、サインもまた「図」にしようと考えられるでしょう。これは、言葉で言えば、ほとんど矛盾した目標です。だから、その仕事は困難なのです。
そんな言葉の上では不可能であったことを、デザインによって突破される仕事を、審査過程
で、多く拝見しました。
それぞれの洗練の極みは、恐るべきものでした。
たとえば、「青木淳賞」を差し上げた「CORN」は、町で見慣れたモノ、つまり「地」であるモノを、本当に些細な方法で「地」であると同時に「図」にすることに成功されていました。ある意味で、デザインの方法論としては、全てが出尽くしてしまった現在、「図」/ 「地」を巡るこうした試みが、今後のひとつのサインの主題になるだろうことを実感しました。
大倉冨美雄
大倉冨美雄デザイン事務所代表取締役
建物や環境デザインそのものがサインになる傾向が一段と強く出てきた、とは、今回の審査開始にあたり状況説明があった。審査でも建物のファサード( 前壁面) の意匠をサインとしている申請が多かった。
モード学園スパイラルタワーズは建物イコール、サインで受賞対象としても考えたが、ここまでくれば建築家がいれば、サイン・デザイナーの担当分野ではなくなる。他に、表参道のGYRE や薩摩伝承館などが印象に残る。確かに北京オリンピックの競技場も、「鳥の巣」と言った方が通りがよくなってしまったことを思い出しても、建築物の形態と照明表現は圧倒的だ。
一方、J R 京都駅は、「京都」のサインとしては問題を残した。建築や都市計画がサインであるためには、建築の独善だけでは許されない。特に「サイン建築」を否定するのではないが、それはそれで難しい問題がある。
またサインはサインで一般に、建築に負けている。サインから建築を始めるわけではないからだ。SDA としても、どこまで、どのような観点から認めてゆくかについては今後とも研究が必要だろう。
それであるならば、どちらにも優劣つけずに均等に実現する努力は、また新たな評価の対象になろう。
私の賞をさし上げたTRUSCO は、そういう流れから出てきた。特に秋田の方はサインと建物を、平面で角度を変えて組み合わせた古典的で単純な手法だが、英字体扱いも良く、それらが明快なぶつかり合いとなって効果を倍増させた。
今回は他に、経時変化する水滴をサインに利用したり、変化するファブリック状平面の突起に斜めライトアップして影の作る造形を見せるなどの素材と時間の新しい使い方に注目。全体として地殻変動が起こりつつあり、思いもよらぬ可能性が考えられ始めている。
しかし設置場所、機能、時間帯、効果、耐用時間などに広がりを持つほど、環境への配慮や企画性が問題になってくる。そういう時代になってきたと言えよう。
勝尾岳彦
日経BP 社
日経デザイン編集委員
新しい技術の出現が表現の可能性を拡げ、サインデザインの概念そのものを書き換えていく。昨年の「秋葉原UDX」に引き続き、今年のSDA 大賞を受賞した「WATER LOGO」は、そんなことを実感させてくれる作品だった。同じ作者の「NICOLAS G.HAYEKCENTER 映像サイン計画」と「WAVINGINFORMATION」も同様だ。
これらのサインは新しいメディアを通してサインに触れる人に新鮮な驚きを与え、強い印象を残して確実に情報を伝えていく。新たなメディアへの挑戦が、デザインの地平を広げてくれることを示す好例だと思う。
SDA 賞ではこれまでに幾度も工事現場の仮囲いが受賞してきたが、「DIARY」は仮囲いの表現にもまだ新しい可能性があることを見せてくれた。工事現場で実際に行われているリサイクル活動を「見える化」するという着眼点が秀逸であり、再資源化のために蓄積する端材が予想以上に美しくディスプレイされていることが新鮮だった。
「福岡銀行のユニバーサルデザイン」は、地方銀行が大手銀行に勝るとも劣らないUD 環境の実現に真摯に取り組んでいること、優れた水準でそれを実現していることが高く評価できる。このように非常に地道で手堅い表現の秀でた作品がある一方で、「WATERLOGO」のように実験的で驚きに満ちた作品を見ることができるSDA 賞は、多様な彩りに満ちた現代のデザインの最前線そのものを、体現しているのではないだろうか。来年も審査員をうならせるような斬新な作品が出品されることを確信している。
小島良平
小島良平デザイン事務所
ここ数年来、空間に於けるサインデザインへの意識が少しづつ変化し、展開されて来ている。サインそのものが平面的あるいは立体的なパネルや造型物にメッセージをデザインされたものが主流になって久しいのだがその一方で海外のブランドが建築のファザードをビル全体にある意図を持って画像や映像を光を伴って都市空間に刺激を与えている。コンピュータの発展とLED や新しい光のコントロールによってより未来的なイメージを提供している。しかしこの傾向も都市環境が整った場でその洗練されたブランドのイメージは発揮される。今後のネオンサインに変わる新しいデザインの在り方を伝えてくれているのかもしれない。
今回の審査で私が好感を持ったサインデザインはNICOLAS G.HAYEK CENTER のデザインである。通常サインは定点で移動しない表現が多いのだが、この作品は光と画像が快く空間を交差しオレンジ色の時計のデザイン(シンプルで印象的な) がビルの床面に照射し動きながら重なり合いまた美しいコンポジションを画いて光の奇跡を見せてくれる。このオレンジ色の時計のパターンはある一定の距離でピントが合う様に計算され人間の腕時計を見る高さに設計されている。これはフローティングクロックと呼ばれているものである。もう一つはフローティングシグナルと言われるもので1 時間ごとにフロアーに時計の画像がオレンジ色を伴って時報を知らせる役目をはたしているものも展開されている。
消えるサイン、浮遊するサイン、意識の中に飛び込んでくるサイン、参加性を持って光のモーショングラフィックを巧みに演出する鮮やかなクリエイションは空間に小さな驚きと楽しさを与えてくれる。今回の審査で最も印象的で秀逸な作品である。
赤瀬達三
黎デザイン総合計画研究所
代表取締役
今年のSDA賞では、「WATER LOGO」、「NICOLASG. HAYEK CENTER 映像サイン計画」、「WAVINGINFORMATION」の3 点が入賞した原研哉による洒脱なディスプレイが際立った。「WATER…」の全体像や立地条件はビデオを見てもよくわからなかったが、光を集めた水玉がダイヤモンドのように美しいことはよく感じられた。「NICOLAS …」はオレンジ色の光のシルエットがこれまで経験したことのない角度から投げかけられて、とても楽しい。「WAVING …」も、居合わせた来場者にさわやかな衝撃を与えてくれたものと思われる。こうした作品の審査に立ち会うことはとても気持ちのいいもので、新鮮なディテールがあって、かつとてもスマートなこれらの作品に脱帽である。
一方で、SDA 賞の上位入賞がこうした作品のオンパレードでよいのか、という危機感も抱かざるを得なかった。パブリック・インフォメーションを専門とする立場から見ると、もっと骨太で大衆のハピネスに大きく貢献するようなデザインの登場が期待されるのである。1990 年代に完成したかに見えたパブリックサインの系譜も、その後の形骸的な民営化や市場原理主義的な主張のもとで壊滅的な打撃を受けて、特に幅広い層の人びとが集散し雑踏する公共空間のサインが自らノイズと成り果て、デザインの方向性を失ってずいぶん時間が経っていると思う。SDA 賞が過去に顕彰してきたような、社会的な秩序化に貢献する作品が出てくることを願ってやまない。
そうした観点からみると、島津勝弘らによる「みんなで描いた、今庄小学校」は大変価値のある作品だと思われる。これからの世の中を引っ張っていく子供たちの一人ひとりが、自分たちの世界の秩序化に挑戦したことの意味は、とてつもなく大きいはずである。このようなチャンスを作り、かつ質の高い水準にまとめ上げた関係者に敬意を表したい。
佐藤 優
社団法人日本サインデザイン協会
常任理事
今年のSDA 賞は驚きの連続だった。景気低迷の中で知恵を凝らしたすぐれた作品が多く、おおいに刺激を受けた。中でも大賞となった「WATER LOGO」は、紙に水が浸透する作用を活用し、滲み出た水が文字をつくり、表面張力の限界を超えると流れ出すオブジェ的なサインで、商品の特性と受け手の興味を誘う見事な作品だった。最優秀賞を受賞した「NICOLAS G.HAYEK CENTER 映像サイン計画」も同じ作者の作品。中空に焦点が合って通りかかった人の身体の一部に文字が浮かび上がる作品で、いずれも情報の発信者と受信者の関係が一方通行ではなく、心地よい相互作用を形成しているところに特徴がある。
今後のサインの方向を提言している。
今年は安定した手法や完成度の高い表現の作品が多く、世界的に見ても質が高い。また、景観法の影響を受けてか、大きくて派手なサインが影を潜め、堅実で共感されやすい作品が増えている。
特別賞には、「くいだおれ人形・・」と「のれんによる町づくり」が選出された。例年より候補が多く激論となったが、大阪のシンボルとして親しまれていた作品が消えることは、ひとつの転機かもしれないと考え、また、これまでの大阪・ミナミ地区への功績に対して特別賞を贈ることにした。岡山県真庭市勝山ののれんは、ひとりの作家が一貫したすぐれた造形力でまちづくりに貢献している好例として、地域起しの参考になる。
近年、ネオンが減り、インターネット広告が急成長している。部屋に閉じこもったままで生活をしている人が増えているのだろうか。知名度を高めるために名前を連呼するような表現がフィットしなくなり、内容の価値を伝え、感性に訴える広告が望まれている。
また、映像機器の発達により、面積の量を競うことから、時間を売買する時代へと変わりつつある。屋外においても受け手の時間をどれだけ獲得できるかが鍵であり、単純な動画像が注視されない中で、時代をリードする新しい表現方法の出現を待ちたい。
定村俊満
社団法人日本サインデザイン協会
副会長
本年度大賞のWATER LOGO はまさに「目から鱗、布から水」のびっくりサインでした。ゴアテックス等の透水性新素材で作られたレインギアーや、そのままお風呂に入ることが出来るキズテープは、ほとんどの人が使ったことがある素材です。確かに、空気は通すけれど水は通さないこれらの素材の表面にはしっかりと撥水加工が施されており、多少の雨は粒状になって布地の表面を流れ落ちていきます。でもこの機能をサインに使おうとは、正直、考えても見ませんでした。この他にも光によるNICOLAS G. HAYEK CENTER 映像サイン計画、そして布の伸縮性を利用したWAVING INFORMATION の3 作品は、これまで身近にあった素材と手法を再構成し、サインデザインの新たな可能性を見せてくれました。さらに時間の変化により表情がさまざまに移り変わる様は、まるで日本の四季がもっている「はかなさ」まで感じさせてくれます。
これらのアートフルなデザインに対して、地味ですが着実に社会に貢献しているものがJR東日本異常時情報案内サインだと思います。事故や災害時のお知らせは、どこの駅でも駅員さんの音声による構内放送に頼っています。実は聴覚障害者にとって、これが大きなストレスの原因のひとつになっているのです。なぜ列車が動いてないのか、いつまで待てばいいのか、情報がないことでさらに大きくなっていくいらいらと不安を、このサインは取り除いてくれます。
全く違うふたつの作品ですが、そのアプローチと成果に大きな拍手を贈ります。
島津勝弘
社団法人日本サインデザイン協会
常任理事
本年度のSDA 賞最終審査で感じたことは、例年以上にコンセプトが明確でデザインもきれいな作品類と地域に価値を見いだす作品類に、二極化するデザインが多かったように感じられた。
まさに、時代の潮流に流されていないサインが伝える事の出来る本質を攻めており、私自身も刺激された審査であった。
入賞作品の中で、今回大賞を受賞した「WATERROGO」は、サインの持つ機能を原点から一度再考する秀作であった。通常は組み合わせる事の無い、「水」と「紙」という素材の意外性に中に、あり得ないサイン効果と驚きが、審査の焦点になった。これからの素材感イメージに新鮮さを覚える作品であった。
今回の最優秀賞を受賞した、「NICOLAS G.HAYEK CENTER」「WAVING INFORMATION」に関しては、大賞と同じデザイナーではあるが、その精度と変化には驚かせられるものがあり、どの作品がグランプリになっても良い程の、クオリティーが保たれたデザイン作品であったと思う。
あと自身も訪れた事の有る、犬島アートプロジェクトも小さな作品群ではあるが、細部までデザインに配慮している仕事である事が、審査後に訪れて更に感じた。また、D 類の「今庄小学校」も、これからの教育環境問題にくさびを打つような、多くの努力の感じられる作品であった。
優秀賞を受賞した作品類も、カラーコンセプトが明確であった「大宮公園サッカー場」、ユニバーサルに徹底的に配慮した、「福岡銀行」なども印象に残っている、奨励賞の作品類の中にも、点字ブロックの件では議論になりはしたが、明確でシンプルなデザインが心地良い。
これ以外の今年の作品類にも、人の心に訴えかけるメッセージがコンセプトとなっているものが多く見られたことは、シンプルな表現であっても何を伝えたいかが明確なコンセプトとなり、メッセージ性を強く主張していた作品類が、私も含め審査員の心に伝わったように思う。
来年は、さらに社会に価値を見いだし、強いメッセージを放つようなデザインに期待したいと思う。
武山良三
社団法人日本サインデザイン協会
常任理事
SDA 賞には時代と共にその時を写す作品が受賞してきたが、何年かに一度、まるで多段式ロケットに点火されるように飛躍的な成果を上げる作品が現れる。
本年度の大賞作「WATER LOGO」はまさにメガトンクラス、サインデザインにひとつの突破口を開く作品である。人の五感に訴えかける感性的な魅力に溢れながら、緻密に計算されたメカニズムがあり、何より確かなデザインコンセプトに基づいた作品であった。
原研哉氏の作品は、映像を床や来訪者の身体に投影する「NICOLAS G.HAYEK CENTER映像サイン計画」とピンで波状の凹凸をつけたスクリーンに映像を投影する「WAVINGINFORMATION」も同時に大賞選考に残った。いずれも審査員を魅了し、甲乙つけがたく意見は百出したが、素材となった水自体の魅力が一歩勝ったのだろう「WATER LOGO」が大賞に落ち着いた。
景気は決して良いとは言えない社会状況だが、応募作品は秀作揃いで「これが入選にならないか」と驚いたり、悔しがったりの連続だった。僅差の判定もあったが、それを左右したのは見た目の美しさやパネルの制作テクニックよりもコンセプトの明快さだった。「なぜそのデザインなのか?」この最もプリミティブな問いかけに明快な答えを提示できたものだけが残った。近年のSDA 賞作品を見ていると、「これが日本の空間デザインです」と胸を張って世界に紹介できるものだと思う。しかし、現実の都市に目を向けると相変わらず醜悪な景観がそこにある。レベルが高くなればなるほど、むしろ現実の世界と乖離していくように見受けられる。SDA 賞が単にデザイナーの賞ではなく、事業者やそのサインが設置される場所で暮らす住民にとっても関心を持てるような賞となるよう、 作品だけでなく賞自体も時代に即して成長することを目指したい。
宮崎 桂
社団法人日本サインデザイン協会
理事
今年のSDA 賞は出品作品が変化に富み、ハイレベルだった。
SDA 賞は例年いくつかの部門に分かれており、応募者はとりあえず部門を指定して応募することになっている。しかし、この部門の解釈がむずかしく、どの部門に出品するのが適当であるのかと感じている応募者も多いのではないかと思う。
何をしてサインデザインというのか?あるいは、サインデザインという領域を設けることすらあまり意味のないことなのか?それくらいサインの定義もあいまいにまた、広域になっており、サインイコール表示とすると、表示の一切無い作品も多く出品されている。審査する側からみると、正直、作品のレベルとは別に、これはサインというカテゴリーで審査すべきなのだろうかと、判断に戸惑う作品も多々ある。サインというデザインをひとくくりにすることがいかにむずかしく、まとまりのないことかもよくわかる。しかし基準を外してしまえばもっとむずかしくなってしまうだろう。
こうしたことは何もサイン界に限らず、グラフィックや空間系すべてのデザインがボーダレス化してきていることと同様の現象だ。
そんな中で、今回の大賞は、WATER LOGO が選ばれた。撥水性のある紙をアピールするために水というむずかしい素材が文字の材料として使われた。もちろんこの作品は大賞に遜色ないすばらしいものであるし、これがグランプリとなった最大の理由は素材選択の意外性にあると思う。良いサインかどうか、ということではない。
またその他にもこれと肩を並べる作品はいくつかあり、いずれも優劣付けがたく、力量たっぷりでみごとだった。
大賞以外は部門ごとに最優秀賞、優秀賞、奨励賞、審査員特別賞と序列はあるものの、これらの受賞作品はどれもコンセプト、表現力、今日性などの面で優劣つけがたく、部門の枠を外せば、どれがどれになっても一定のレベルを保っている作品であることは確かだ。世の中、いろいろな面でこだわりのない多様性が求められているように、サインの世界も例外ではないようだ。
デザインは時代の鏡、まさにそれを反映しているような作品群であった。
宮沢 功
社団法人日本サインデザイン協会
常任理事
長い間、私はサインデザインの役割について、文字情報としての意味以外に他の媒体から伝えられるもっと重要な情報があるのではないかと考えてきました。第42 回のSDA 賞に見られたいくつかを取り上げたいと思います。TOKYO FIBER 展のためのサイン2 点、ナノレベル(10 億分の1m) の超撥水加工を施された布に文字を水滴で描き出し、時間とともに湧き出した水滴が転がり落ち又新しいロゴが湧き出す「WATER LOGO」。高度な伸縮性を誇る「スーパーニット」を用いた運動する三次元スクリーンとそこに投影されるモーショングラフィックが展覧会のロゴ、メッセージを伝達する「WAVING INFORMATION」。この両作品は展覧会のテーマである布の特性を使い、時間経過の面白さと布の特性を視覚的に伝え、文字情報以外で興味を引き出し展覧会の内容を見事に伝達しています。その他、映像と時間とモーショングラフィックを組み合わせた「NICOLAS G.HAYERK CENTER 映像サイン計画」。工事中の仮囲いに仕掛けられた端材の量が工事の進行によって変化し、リサイクル材の分別回収と完成までの時間経過を伝える「DI ARY」。異なるいくつかの素材によって、明治近代化産業遺産「犬島精錬所」の歴史を表現した「犬島アートプロジェクト」などです。これらは文字など表示系の情報媒体に加え、その場所や情報の特性を素材や時間、動きなどによって人の感覚に作用させ、文字が持つ意味以外の情報を伝えていることで、これからのサインの方向を示唆しています。地場の木材を使いそこで学ぶ小学生が参加した「みんなで描いた、今庄小学校」は、サインがそこに表示された情報伝達だけでなく、周囲と一体の環境となりそこに生活する人々の記憶をつくり、人の心にまで関わる重要なものであることを指摘しています。ダイナミックで美しい「七色の帆引き船」は、明治13年(1880 年) 白魚漁を目的に考案され、その後100 年間継続した伝統をさわやかな驚きと強い印象でよみがえらせている。
最後に、レディメイドと安さ、アイデアで勝負した「CORN」。明快なわかりやすさ、収納性、完成度、そしてセンスを感じる仮設サイン「→(やじるし)」は、久しく忘れていた小型サインの持つサインの原点を感じさせてくれ新鮮でした。
横田保生
社団法人日本サインデザイン協会
副会長
今回の審査会では、素材の持つ力が遺憾なく発揮された作品が目に付いた。
素材がものを言っている。素材そのものに情報が凝縮している。特に伝統的な素材には、時間や空間を特定するコンテクストがある。サインが空間に配置されるからには必ずサインを構築する素材がある、等々。素材そのものが持っている力に今さらながら気づかされた。
特に、大賞となった「WATER LOGO」は新素材である超撥水加工布を用いることによって水滴を制御し、サインに仕立て上げるという、素材特性を生かし切った作品であった。水玉が生まれ、それらが時間とともにコロコロと踊り転がる姿は美しい。ここでは我々が刹那にしか見ることの出来ない自然の美しさを新技術・新素材の活用によって澎湃と映し出すことに成功している。
「犬島アートプロジェクト」は、焼杉板、金属成分を含んだ煉瓦、赤錆鉄、人工大理石を素材にし、そこにローマ時代の碑文文字を配している。表現されたサインはそれぞれに時空間を推定してしまうが、このバラバラさが一緒になった時、無国籍で普遍的な結論へ導かれる。
「DIARY」は工事現場仮囲いの発信装置としての新たな可能性を示した。SDA では仮囲いの在り方に関して長年の間啓発を行ってきており、近年優れた作品が設置されるようになってきた。ここではリサイクル用に分別回収した端材をそのまま表示素材として使うことによって、仮囲いを隠すためのものから見せるためのものに変身させている。リサイクルという時流に合ったテーマにも共感を覚える。勝山の「のれんによる町づくり」は、地域のためにサインが貢献できる代表的な好例であった。製材所から檜や杉の皮をもらい、その煮汁で染めた日よけの暖簾が出発で、住民自発の街作り活動が暖簾の町を創り、小さな城下町のアイデンティティを構築している。草木染めの布が街の印象をやさしくした。地域の素材で地域の人々が文化を育んでいく課程にサインが貢献できたことは大変嬉しいことである。これらの暖簾が一人の作家によって創られていることも、重要な要素である。
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