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SDA賞SDA賞

第41回(2007年)SDA賞 受賞作

審査評

井原 理安
社団法人日本サインデザイン協会
会長
SDA賞も回を重ねるごとに幅広いジャンルからの応募や優れたデザインの作品が数多くあり審査をする側にとっても面白いというばかりでなく、実際のロケーションに対して環境・景観的にどうか、社会に人に対してどう関わり、どんな影響を与えているのか、作品応募者の意図を読みとり、協会総意として評価したい。
今年の応募作品全般を通じて商業サイン部門、特にB-2類システムサインに優れた作品が多く、近年激選部門となっていることは世の中少しは活気溢れている様子であろう。SDA大賞は秋葉原UDX「感応する3つの情報装置」が選ばれた。このところの秋葉地域は国内はもとより海外からも多くの人々が集まり独特の文化地帯である。そんな中で人と街と自然に関わり感応する3つの情報装置が新たな街の活気を生みだし、訪れる人々の記憶に残る様期待したい。最優秀賞の横須賀美術館、竹尾湾岸物流センター、優秀賞の日産自動車デザインセンターの作品は同じ作者であるが、グラフィックデザインの手法が分かりやすいサインとして機能しているところに感動し、毎回応募されることが楽しみである。グランドプリンスホテル高輪「和のあかりサイン」はおもてなしの心を和の美しさに表現され、心温まる作品である。奨励賞の「おしチャリ」自転車事故防止のためのサイン計画は現物を福岡で見ると、かなりインパクトがあり誰もが目に止まり効果的なデザインであった。いま安全性の問題や事故対応サイン( 飲酒運転禁止など)が氾濫しつつあるが心くばりのサイン表現でありたい。
最後に今回受賞の皆様おめでとうございます。
大倉 冨美雄
大倉冨美雄デザイン事務所
代表取締役
感じたことは、デザインとしての底上げは進んで来ている一方、まったく新しい提案・デザインは一段と難しくなっている、ということだ。特に大掛かりな建築工事になるほど、サインの新規性の可能性と重要性は増しているはずだが、その割には建築設計者がサインの真の意味性を意識していず、建築計画の当初から相談されてはいないからだ。もっとも、そんな余裕がないほど追い詰められているのが現状でもある。この結果サイン・デザイナーは、早くても設計の出来上がった空間で何とかしなければならず、これでは誘導標識の域を抜けられず、本当のサイン空間のイノベーションは難しい。
            
そういう点では独立性の高い、この「ミスター・P」などはその被害からは無縁であるが、反対に都市環境の破壊者のレッテルを貼られやすい。それを承知でのことだが、都心部から車を追出すのでない限りパーキングは無くせないし、視認必要度は高い。そうなら、この神経のとんがる都市生活で「視神経にだけでも」、シンプル、明快で、さっぱりして憂さを晴らしてもらわないと困る。
そういう意味では、設置環境に合わない場合の配慮もあり、生活者心理をよく織り込んだサイン計画と言える。
勝尾岳彦
大倉冨美雄デザイン事務所代表取締役
建物や環境デザインそのものがサインになる傾向が一段と強く出てきた、とは、今回の審査開始にあたり状況説明があった。審査でも建物のファサード( 前壁面) の意匠をサインとしている申請が多かった。
モード学園スパイラルタワーズは建物イコール、サインで受賞対象としても考えたが、ここまでくれば建築家がいれば、サイン・デザイナーの担当分野ではなくなる。他に、表参道のGYRE や薩摩伝承館などが印象に残る。確かに北京オリンピックの競技場も、「鳥の巣」と言った方が通りがよくなってしまったことを思い出しても、建築物の形態と照明表現は圧倒的だ。
一方、J R 京都駅は、「京都」のサインとしては問題を残した。建築や都市計画がサインであるためには、建築の独善だけでは許されない。特に「サイン建築」を否定するのではないが、それはそれで難しい問題がある。
またサインはサインで一般に、建築に負けている。サインから建築を始めるわけではないからだ。SDA としても、どこまで、どのような観点から認めてゆくかについては今後とも研究が必要だろう。
それであるならば、どちらにも優劣つけずに均等に実現する努力は、また新たな評価の対象になろう。
私の賞をさし上げたTRUSCO は、そういう流れから出てきた。特に秋田の方はサインと建物を、平面で角度を変えて組み合わせた古典的で単純な手法だが、英字体扱いも良く、それらが明快なぶつかり合いとなって効果を倍増させた。
今回は他に、経時変化する水滴をサインに利用したり、変化するファブリック状平面の突起に斜めライトアップして影の作る造形を見せるなどの素材と時間の新しい使い方に注目。全体として地殻変動が起こりつつあり、思いもよらぬ可能性が考えられ始めている。
しかし設置場所、機能、時間帯、効果、耐用時間などに広がりを持つほど、環境への配慮や企画性が問題になってくる。そういう時代になってきたと言えよう。
勝尾 岳彦
日経BP社
日経デザイン編集長
第41回SDA賞大賞は「秋葉原UDX」が受賞した。再開発された秋葉原の「顔」の1つとして、新しい文化の発信拠点と位置付けられた建物だ。季節や時間帯に応じてプログラムされたコンテンツが柱を流れたり、130mにおよぶファサードに設けられた108桁のデジタルカウンターが、平行して走るJR線の車両を追いかけて数字を表示したり、先端技術とそれに関わる情報が集積する秋葉原という街の特性を象徴する仕掛けをふんだんに盛り込み、今後のサインデザインの方向性の1つを示した事例だと言える。
ある映画の中で、過ぎ去る通行人一人ひとりの嗜好に合わせた広告が壁に映し出されるシーンがあったが、一方的に情報を発信するのではなく、まわりの環境や人の動きに感応しながら、必要な情報を必要な人に伝える時代が近いうちにくるかもしれないという予感を今回の審査会で感じた。
招待審査員賞には「日産自動車デザインセンター」を選んだ。車という製品を生み出す創造の場のサインとして、作者が提案している「一本の道」というコンセプトはとてもふさわしく感じられた。また、出来上がった一筆書き風のサインそのものも美しく、コンセプトとともに高く評価できる。
中川 憲造
NDCグラフィックス
代表取締役
映画の魅力を引き立てているものに、脇役の働きがある。観客は物語を楽しみながら、主人公に感情移入していくが、場面をつくり、主人公を際立たせるのに、脇役の演技力が欠かせない。アカデミー賞の授与式で、「助演賞」を受ける俳優のキャリアからくる渋い個性の輝きは、主演スターを凌ぐことも多い。
都市に次々と出現する新しい施設の魅力も、サインデザインの役割抜きには考えられない。
構造物の「物語」に方向性を与え、シーンを演出し、観客を魅了する。サインデザイナーの「仕事」は、都市空間という主役を支えて余りある演技力を備えている、ということを、この審査会で改めて感じた。
横須賀美術館や竹尾湾岸物流センター、日産自動車デザインセンターに見られる「主」の認識と、サインデザイナーとしての「脇」の働きぶりに、個人的にはことしの「最優秀助演賞」を廣村正彰さんにと、勝手に思っている。同様に、自身の名を冠した賞にも、東京ミッドタウンに異彩を放つ「Belberry」のデザイナーたちに。いづれも機能性だけの、まじめな追及だけでは決して得られない、エモーショナルなデザインに脱帽。
宮崎 浩
プランツアソシエイツ
代表取締役
昨年に引き続きSDA賞の審査に参加し、今回の審査員特別賞として、上海に建設されたショッピングゾーンを含むオフィスビルのサイン計画「SIGNTERIOR」を推薦しました。
「SIGNTERIOR」は、上海という土地柄か、あるいは今の時代を反映しているのか、非常にアグレッシブな作品で、床から壁、天井まで動線をデザインした、サインデザインというよりは空間構成といえるもので、実際にこのスペースが稼動した際に誘導という機能が成立するかどうか少々不安はあるものの、デザインに対する積極的な姿勢を高く評価しました。
この作品に限らず、本年は、B-2類最優秀賞「竹尾湾岸物流センター」、A-2類優秀賞「多摩大学グローバルスタディーズ学部のサイン」他、建築の空間表現と真正面に向かい合った、説得力のある作品が数多く応募されていて大変刺激的でした。
一方、SDA大賞となった秋葉原UDXをはじめ、街並や都市的なスケールに対するサインデザインの提案は、今一歩魅力に欠けていたのではないかと思われました。
赤瀬 達三
千葉大学大学院工学研究科
教授
SDA大賞をとった「秋葉原UDX」の応募内容は、「サボニウス型風力発電装置」、「情報ゲート」、「7つのセグメントによるディスプレイ」の3つの環境デザイン提案である。「サボニウス型」というのは、フィンランド人サボニウスが発明した、縦軸に半円筒の羽根を取り付けた風車のことで、3台の風車によって、このモニュメントの稼動に必要なエネルギーを生み出しているという。「情報ゲート」は、UDXビルのメイン玄関であるピロティに柱型から梁型に連続的に流れるスクロール表示で、情報拠点らしい演出に寄与している。「7セグ・ディスプレイ」は、130m以上の開口をもつ、4階東側のファサードに、インフォメーションテクノロジー表現のオリジンとも言うべき、7つのセグメントによる数字を108桁に並べて、平行して走る都市鉄道にメッセージを送ろうとするものである。
三者はそれぞれに時間をかけて練り込まれたものと思うが、筆者には、「7セグ・ディスプレイ」が、建築表現上のモチーフ設定の仕方やスケール感、環境との呼応関係において、最もよく整理されているように思われた。
最優秀賞作品のうち、「横須賀美術館」と「竹尾湾岸物流センター」は、同一の作家による作品である。「横須賀美術館」のサイン表現は、この作家にとって手のうちの手法らしく、のびのびと自由にデザインされている。ほほえましいデザインである。一方「竹尾湾岸物流センター」は、新しい表現領域への試験的なデザインが行われている。この倉庫内の実際の利用状況をイメージしてみると、果たしてこれがそぎ落とされたコードとして本当に機能するのか、ドライバーにとって余計なノイズにならないか、とても気になるところである。しかしそうした疑念を超えて、このコードを絞り込んだデザインには、新しい表現への挑戦的な意図が読み取れて、それが筆者には魅力的に思える。
定村 俊満
社団法人日本サインデザイン協会
副会長
京浜東北線の窓から電車を追いかけるように疾走する光が見えた。思わず錯覚かと思いさらに視線を向けると、そのときにはすでに光は追跡をやめ、大きな壁面が窓のフレームから消えていった。秋葉原UDXのインタラクティブサインであった。周辺の環境の変化に対応して表情を変える、というアイデアは情報彫刻の分野ではこれまでにもいくつか見聞したが、これほどまでのスピード感をもったプレセンテーションは初めての体験である。電車の窓ごしに、一瞬だけ受け取る強烈なメッセージ。「チャンスは2度ないよ」と言われているような思いが残り、しばらく空を眺めていた。
薄暮の空に月齢14.3のフルムーンが見える。釣り好きの人が思わずにやりとする自然の記号である。5月末に訪れた広島の「ささきつりぐ」の屋上には、釣りに絶好の潮具合を告げる満月のサインが光っていた。古びた店内では常連と思われる男たちが、男勝りのおしゃべりをする女性店主を囲み、釣り談義に花を咲かせている。セルフスタイルが増えた最近の釣り具屋と比べ、なんとも心地のいい時間がゆったりと流れていく。「チャンスは2度ないよ」と、帰りに見上げた月のサインが釣り人の心をかき乱す。
作者が「一期一会」という表現で説明しているこれらのサインは、デジタルな手法を用いつつ、情報が氾濫する都会の空間にむかって、ロマンティックなメッセージを発信している。機能主義、合理主義が優先される近年のデザイン状況の中で、さわやかな風を感じた作品だった。
本年度のSDA賞は応募点数233点、パネル枚数では872枚となり、2年連続の応募増加となった。応募していただいた方々と関係者にこころよりお礼申し上げます。
佐藤 優
社団法人日本サインデザイン協会
常任理事
商業施設の大賞・経済産業大臣賞受賞は久しぶりの快挙である。しかも賑わいを演出するサインシステムの受賞に価値がある。「秋葉原UDX」は、秋葉原ならではの小気味のいい鮮やかな表現を展開した。
私個人としては、東京ミッドタウンの圧勝であると思っていた。誠実でわかりやすい、玄人好みの表現だったが、審査は意外な結果になった。これが一番にならないのであれば、今回の評価の視点を別のところに置かなければ筋が通らない。
この重苦しい空気を台風のような勢いで吹き飛ばしたのが「秋葉原UDX」だった。最近は質の高い公共のデザインが注目されてきた。
しかし、SDA賞は社会性や造形性ばかりを評価しているのではない。力強い商業的な作品が求められていたのである。
最優秀賞の「グランドプリンスホテル高輪 和のあかりサイン」は、デザインのストーリーがよくわかる明快な作品で好感を持った。優秀賞の「月のサイン」は、釣師の心をそわそわさせるにちがいない。「Belberry」は、サインアートとでも言えるダイナミックな作品だった。情報を伝える手法は多様であり、サインの可能性を示唆した。奨励賞を受賞した「色覚共有色彩計画ソフトウェアCoSym」は、日本で300万人以上いると言われる色覚異常者を考慮した配色ツールであり、社会的に不可欠な視点を具体的な手法として示した。
特別賞・産業デザイン振興会長賞受賞の「20周年を迎えた福岡市都市景観賞」は、市民に支えられ、深く浸透している総合的な景観づくりが評価され、その手法は国内外に広く影響を与えている。「神戸ルミナリエ」は、大きな災害が続く中で、一過的なイベントに終わらず犠牲者の鎮魂と復興の象徴になってきた。
大賞をはじめ今年の受賞作品で注目した、クライアント、業態、地域、設計方針、利用者、市民などの間のコンテンツをしっかりと組み立てていくプロセスが重要であり、サインデザインがまたひとつ面白くなってきた。
島津 勝弘
社団法人日本サインデザイン協会
常任理事
本年度のSDA賞最終審査に参加させていただき感じたことですが、例年以上にデザイン的ビジュアル的にきれいな作品も多数ノミネートされていたが、本年度の優秀な作品類にはコンセプトが明快な作品が多く見られたように感じました。まさに時代の潮流に流されていないサインの持つ本質を正面から攻めている手法で、私自身も刺激された審査であった。
入賞作品の中で、今回大賞を受賞した「秋葉原UDX」は、サインの持つ機能を原点から一度再考する秀作であった。電気街として発展をして来た秋葉原で、オタクの街という感もあるが、今や世界の情報発信元にもなりつつある街であり、東京の中で一番外国人に出会うのではないだろうか。そうした街、秋葉原においてUDXの情報サイン類は、50年先の秋葉原イメージする「文化的発電装置」そのものである感じがする。人とモノが集まり、個性と先進性を生み出し続けてきた秋葉原に、コンセプトにもあるように新たな「情景」を作り出しているような気がする。
最優秀賞を受賞した、「横須賀美術館」なども目の前の海を切り取ったシンボルなど、これほど明確なコンセプトは無いような気がする。内部のサイン類においても、楽しく観覧する人々のシルエットをそのまま楽しいピクトにするなど、グランプリに匹敵する作品に思う。
あと、「雨竹風竹」なども一見見過ごされがちな作品であるが、深いコンセプトと何度も試行錯誤されたであろうガラススクリーンの表現手法は、一度体験したいものである。
優秀賞を受賞した作品類も、明確なコンセプトが表現され「多摩大学グローバルスタディーズ学部」など、すべての授業を英語で理解する空間らしく、国際人を育てるグローバルな環境グラフィックとなっている。「日産自動車デザインセンター」でのサインの領域を超えたグラフィックは、ここで働くスタッフの生き生きした顔が見えてくるようである。
あと「月のサイン」や「探すプロセスを楽しむショールーム」の作品なども、これまでに無い視点のコンセプトでデザインされ、どちらも自然と吸い込まれていくようなサインであり、空間である。
これ以外の今年の作品類にも、人の心に訴えかけるメッセージがコンセプトとなっているものが多く見られたことは、高度な技術や表現手法が無くても、シンプルな表現であっても何を伝えたいかが明確なコンセプトとなり、メッセージ性を主張していた作品が私もそうであるが、審査員の心に伝わったのではないだろうか。
武山 良三
社団法人日本サインデザイン協会
常任理事
壁面全体を使った写真やモダンなタイポグラフィなど、ここ数年のサイン表現は洗練度を高めてきた。その進化度は目覚ましく、昨年であれば十分上位を狙える作品が次々と落選していく審査にため息が出ると共に、常に最先端のデザインを自分のものとしていく応募者の気迫にあらためて敬服した。もはやうつくしくあることは当然のこととして、情報の価値付けをいかに行うかが問われていると感じた。
そうした観点から廣村正彰氏の一連の作品には思わずうなった。静かな音楽が聞こえてきそうな「横須賀美術館」、在庫の間をフォークリフトが走り回る様を見てみたくなる「竹尾湾岸物流センター」などは与えられた空間でサインの果たすべき役割が的確に捉えられていた。
サインの新しい可能性を感じさせる作品としては、店舗の真ん中に吊られた赤い帽子のようなディスプレイが印象的な「Belberry」、月の満ち欠けを表現した「月のサイン」には多くの可能性を感じた。また、「マグネットシートを使った仮囲いのデザイン」も、環境問題が深刻化する中にあって革新的なアプローチだった。これはマグネットという素材があればこそだが、数多ありながら利用されていない素材に注目し、命を与えることもサインデザイナーに課せられた重要な仕事だ。
最後になってしまったが、SDA大賞になった「秋葉原UDX」は、サイン界にとって待望の作品だ。かつてマルチメディアなるものが注目された頃からITの活用が期待されながらこれといった活用事例がなかなか出てこなかったからだ。再開発が進む秋葉原というロケーションもいい。インタラクティブな要素を増幅し、願わくば外部にも器機を増設してほしい。この施設には、世界のメディア拠点の顔に育っていくことが期待されるからだ。
宮崎 桂
KMD
代表取締役
本年のSDA賞の二次審査は、審査にかなりの時間とエネルギーを費やした。応募作品数とともにパネル枚数が多く、粒ぞろいであった。
大賞受賞作の「秋葉原UDX」は感応する三つの情報装置というテーマで、電車や、人、風の動きに反応し、それらを進化したテクノロジーによって見える情報として来館者に伝達する装置の考え方は、秋葉原という話題性のある街と呼応するようなサインとして大いに興味を惹かれる作品であった。例年SDA賞の審査は写真あるいは写真とビデオ併用での審査が通例であるが、今回の大賞「秋葉原UDX」は情報装置ということから、写真とともにビデオ映像が提出された。電車が通行することによってセンサーが作動し、LEDの数字表示が順送りについたり消えたりする情報サインや、柱から天井に連続して取り付けられた映像装置、そして風力発電機。それらが活躍する映像は審査員の心をとらえた。大賞決定後ではあるが、実際にそれらの装置を体感するために現地に足を運んだが、その時受けた印象は審査会の時とは異なるものだった。何に対しての賞だったのか、装置なのかプログラムの内容なのか、あるいは全体なのか、絞りきれない状況がそこにあった。課題は審査方法のあり方というべきか。
そのほか、上位の受賞作品はどれも甲乙つけがたいものであった。中でも「日産自動車デザインセンター」は、大規模でそっけない壁面を生かした、環境グラフィックとしてレベルの高い作品である。特に、鉛筆で書いた一筆書きの平面表現がよかった。
また、「青森県立美術館」のサインも力作で、個人的には屋上のサインがうらやましかった。「虎ノ門タワーズ」「天童荘ガーデン」は安定したプロの仕事である。「太郎吉蔵」も気負いがなくほっとする。演出とは思われるものの表示板に雪?を積もらせた写真にサイン以上の工夫を感じて一票を投じた。
審査時の楽しみはこのような応募パネルのプレゼンテーションを一気に見られることにもある。今後ますます多くの応募があることを期待したい。
宮沢 功
社団法人日本サインデザイン協会
常任理事
第41回のSDA審査はサインデザインの傾向が大きく変化しつつある気配を感じた審査であった。特に奨励賞、入選作品の中で学校や医療機関、商業施設などにはサインの本質に真正面ら取り組んだ力作が多く、それぞれの質が高いにもかかわらず上位になれなかった印象がある。これらの作品に見られる地道な努力は、現在のサインデザインの標準的質を高めていることに間違いはないが、賞の対象としてどのように評価していくのかこれからの課題である。
一方、受賞の対象となった作品に見られる共通点は、サイン性という機能を情報そのもの、環境、空間として成立させていることにある。大賞となった「秋葉原UDX」は人、街、自然に感応する情報装置として、個々の情報装置の機能と同時にその集合体としての環境をUDXという「場」のアイデンティティとして成立させている。横須賀美術館は特徴的な周辺環境を取り込み環境との一体化を図ったところが新鮮である。竹尾湾岸物流センターは物流センターに必要なサイン機能を満たしながら、作業環境としての物流センタをサインによって見事環境化している。丸山応挙の「雨竹風竹図」をモチーフとして柔らかな「和」のイメージを情報のスクリーンに表現した「sh(雨竹風竹)」等、今回の上位作品は、従来のサイン概念を一歩、飛躍させたアイディアとコンセプトを、完成度高く美しく仕上げていることが上位入賞に評価された。
サイン本来が持つ正確で、美しく、わかりやすい情報伝達という目的に対する研究研鑽はこれからも重要なことは言わずもがなであるが、様々な技術の進歩、生活観、価値観などの社会状況の変化に対して、サインデザインも新しい可能性に挑戦していかなければならない。
SDA賞の評価基準についても今までの評価軸に重ねて新しい視点や意味が必要になってくる。
特別賞は、阪神淡路大震災の復興の牽引役として生まれた「神戸ルミナリエ」が、被災地自発、定着した様式と衰えないインパクトを維持しつつ、他の被災地に対しても復興と再生のメッセージとして機能している点が評価できる。20周年を迎えた福岡市都市景観賞事業は、景観賞事業を建築中心から空間、市民活動、エッセーなどに対象を広げ伝えている活動を評価したい。
横田 保生
社団法人日本サインデザイン協会
副会長
現代の都市が分かりにくい例として、よく地下街が例に出される。何処に何があるというルールもなく、教えてもらわなければ、出口ひとつが分からない。だから、案内サインが必要だということになるが、サインの持っている機能で特筆すべきは、このような案内や誘導機能のみならず、空間や施設特性を集約してイメージ化する象徴性にある。
現代都市の地上部にあるガラス張りの四角いビルなどは、単にその外観を見ただけでは内容や特質は分からない。こんな時サインデザインはビルの名称を表出するだけではなく、内容特性を顕在化することが出来、しかもシステム化したサインデザインを行うことで、その環境に美しい秩序と分かりやすさ、ひいては設置者のホスピタリティまで感じさせることが出来る。
この意味で、今回大賞となった「秋葉原UDX」は施設の持つ個性の象徴化に果敢に挑戦し、秋葉原を新たな街にシフトするための核施設「UDX」の特性を印象に残る電気的情景に仕立ててよく顕在化している。強いて言えば秋葉原を新たな街にシフトするための拠点として「秋葉原クロスフィールド」があり、その中核施設の一つに秋葉原UDXがあるという施設の基本案内情報はもう少し丁寧に表示してほしかった。
最優秀賞に選ばれた「横須賀美術館」と「トヨタ自動車ショールーム コミュニケーションデザイン」はどちらも白い壁を基盤としたさわやかな表現に好感が持てた。特に前者で用いられた情景描写風の線画のピクトグラフは、優しく包容力が感じられ、美術品と対峙した後のほっとしたい空間を上手く形成していると思う。同様に一本の道に喩えられた一筆書きのピクトグラムや文字を使用した「日産自動車デザインセンター」も、表示の巨大さにもかかわらず威圧感を出さずに、無味乾燥な通路を創造力を喚起する物語空間へ変容させていた。
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