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Japan Sign Design Association Official Website

SDA賞SDA賞

第40回(2006年)SDA賞 受賞作

審査評

井原 理安
社団法人
日本サインデザイン協会
会長
社団法人日本サインデザイン協会も40周年を迎え、その時代の動向と共にSDA賞も40回という歴史がつくられてきた。SDA大賞の候補として富山ライトレール・富山港線トータルデザインの作品と九州大学病院2期病棟、小児医療センターの作品がノミネートされた。大賞の選考に当っては、各審査員が推薦理由を述べ、討議した結果、ほぼ満場一致で「富山ライトレール・富山港線トータルデザイン」が大賞に選ばれた。このことは公共交通機関のデザインの取り組み方が地域の特性を生かした手法やトータルなデザイン指針により、地域のアイデンティティを明確にし、新たなクリエイティブマインドを創出していることが評価されているのであろう。新潟岡本硝子、柏崎工場の温味のある色彩と文字の構成は美しく、そのシステムは高く評価され最優秀賞に選ばれた。またヒルトンプラザ、イースト工事中サイン計画の作品も興味深く、工事中とはいえ、もてなしの心が伝わり、メッセージ性の高い作品である。優秀賞の大分県運転免許センター施設空間デザインシステム開発の作品は明快で分かりやすい。最後に受賞者の皆様おめでとうございます。
大倉 冨美雄
大倉冨美雄デザイン事務所
代表取締役
一体何が問題なのだろう?
この建物の周辺をほっつき歩きながら考えたが、塗り替えたとも聞くこの「赤」が環境に合わないとは思えなかった。この建物の周辺は大きな規模の建物と恵まれた緑とそのスペースから成り立っていて、ほとんど全体の景観に埋没している。
むしろモダン・イタリアンイメージを適格に表現し得た秀作である。

確かに皇居内からみれば目につくかもしれないが「公共の良俗」という視点としてはちょっと違うだろう。
最近、表参道の楽器店の内外装を担当し偶然にも赤いファサードを提案した所、商店街連盟とこのビルのオーナーから拒否されてしまい実現しなかった。「街の良俗」はそれなりに生きている。
二次審査で本件を推薦した所、何人かの審査員の応援もあった。あまりに「悪評」にさらされてしまったために推薦を恐れる雰囲気も感じられたが、私は断固として推したい。
もともと東京自体が色と形の氾濫を容認して来たではないか。ここに至って急に思いついたような正反のみの判断をデザイナーはすべきではないし、むしろその判断の深さを市民に教えるべきなのだ。
勝尾岳彦
日経BP社
日経デザイン編集長
第40回の節目を迎えた今年のSDA賞のサインデザイン大賞は、昨年と同様に公共交通機関のサインシステムを非常に手堅くまとめた「富山ライトレール・富山港線トータルデザイン」が受賞した。最優秀賞以上に残った事例はいずれも完成度が高く、甲乙付けがたいものだったが、ユーザーの細かい使い勝手にも配慮し、綿密に作り込まれたこの事例が大賞を受賞したのは、望ましい。

最優秀賞を受賞した、「ヒルトンプラザ イースト 工事中サイン計画」の、生成りの紙のショッピングバックに印刷をほどこし、照明を仕込むというアイデアの鮮やかさには感心させられた。コストを抑えながらもチープな感じを与えず、ホテルというブランドイメージを大事にするクライアントの要望に沿いながら、利用者にも新鮮な驚きを与えるその手法は、今後の架設サインの1つのあり方を示したものとして評価したい。
中川 憲造
NDCグラフィックス
代表取締役
賞をみると、その時代がわかる。と、何年か後に振り返ったとき、そうなればと願いながら、わたしは審査に臨む。目の前にあるのは、各分野のプロフェッショナルたちが、渾身のチカラをこめて制作された「仕事」だ。どれをとっても賞に値する。しかし、この「いま」という視点でみると、たとえトップクラスの熟練した出来栄えであっても、あえて賞が必要かと再考する。
富山ライトレールは、こんにちの日本の地方都市に共通する中心市街地の魅力向上という課題に、車両・停留所・案内図・制服やステーショナリーまで、トータルにデザインすることで応えた秀逸な仕事となった。惜しまれるのは、車体に大きく表示されたPOTRAMが、富山のアイデンティティにふさわしいかどうか。
ヒルトンプラザの工事中サイン計画は、自身の名を冠した賞にも選ばせていただいた。こんな工事中サインなら、ず~っと工事を続けてもらっても毎日の通行がたのしい。サインデザインの分野が、都市という広大な環境を、また工事中という短命な「仮環境」までを、それぞれ魅力的に情報発信していることに感動した。
宮崎 浩
プランツアソシエイツ
代表取締役
今回の審査にあたり、自分なりの評価軸として定めたことは、空間との関わり合いをテーマとすべきD類(空間環境表現サイン部門)を除いて、できるだけ周辺の空間等の質に惑わされずに、応募された作品そのもののデザインの善し悪しを判断しようとしたことです。その中で、グラフィック及びサイン本体の質の高さを評価対象としたものの、それ以上に、サインとして的確に情報を整理し、伝達できているかという点に着目してピックアップしました。
大賞は「富山ライトレール」。公共交通機関でありながら、このような質の高い作品を生み出した作者は、そのデザイン力のみならず、その総合力が評価されるべきものと思います。建築家に、「この電車に似合うような風景を作ってよ!」と催促するような洗練されたデザインといえます。
また、審査員特別賞として、「モーション・ピクトグラム・インフォメーション」を
推させていただきました。技術的に何でもできる時代、その手法のみにとらわれた安易なデザインが多い中で、これからの時代のサインデザインの可能性を秘めているように感じました。
赤瀬 達三
千葉大学工学部教授
久しぶりにSDA賞の最終審査に参加した。どのパネルもグラフィックがとてもきれいで、ここしばらくバリアフリーや社会基盤の視点から街区や施設の情報提供について考えてきた私にとって、華やぎを競う別世界のように思えた。
大賞をとった『富山ライトレール・富山港線 トータルデザイン』は、カバーし得た範囲の大きさといい、個々のアイテムの造形水準といい、モダンデザインとして秀逸である。特に車両デザインは美しく、富山の町に印象的な残像を引きながら走っているに違いない。問題は、審査会でも発言したように、このような公共デザインにおける地域性をどのように考えるかということである。広島市を走る路面電車とも、フランスのストラスブールやナンシーのそれらとも違う、富山ならではの造形上の主張はあり得るのか。百年単位の歳月と、より個性的な風景の後押しなくして、それは得られないのかもしれない。
優秀賞の一つに選ばれた『大分県運転免許センター』は、とてもセンスのいい作品である。このように一般大衆の利用する施設が、このような気持ちのいい環境グラフィックスをそのまま美しく保ちながら、末永く使われ続けることを切に願っている。
A類が公共・公益施設に公共の目的で設置されたサインを対象とし、B類が商業施設等に商業目的で設置されたサインを対象とするという今の分類方式は、再検討の余地が残されているので一言言及したい。本来情報というものは、空間性に制約されない性質を持っているので、公共施設に設置された商業目的のサインなど、いくらでも存在する。このままだと、道路という公共空間に出現する屋外広告をどう評価するかとか、商業施設内でエレベーターやトイレ案内のようなパブリック情報の提供方法をどう考えるかなど、サインデザインにおける重要なテーマが行き場を失ってしまうので、是正を望みたい。
定村 俊満
社団法人日本サインデザイン協会
副会長
昨年に続き鉄道のトータルデザインが最高賞を受賞しました。富山LRは「TOYOMAクリエイティブライン」を基本コンセプトに「快適性・地域性」「先進性」「情報発信」を視点としたトータルデザインを展開しており、その完成度と安定感は「さすが」と思わせるモノがあります。しかしこのプロジェクトで最も評価したい点は、市民や地元企業をまきこんだ支援の仕組みです。「寄付によるメンテナンス費用の基金化」「ベンチドネーション」「電停個性化壁への協賛」「電停のネーミングライツ」など、公共事業のコスト対策と景観課題にさまざまな手法でトライしています。東京ではなく、地方都市の富山でこれを実現したことに拍手を贈りたいと思います。特に広告効果が見込める電停の壁は、ともすれば劣悪な表現の広告が掲出され、景観の阻害要素になりがちです。行政も広告収入を期待するあまり、駅のあらゆるスペースを広告に切り売りしているのが現状です。富山LRはこの駅の壁を個性化壁と位置付け、企業の協賛により質の高いグラフィック処理で沿線の伝統や特徴を表現しています。地元企業の理解の深さと、これを実現させた関係者の努力に敬意を表します。
2次審査、最終審査を通じて議論の対象となったのは「イタリア文化会館」でした。皇居のお堀端にたつこの建築は、世論の盛り上がり(?)で外観の色彩を一度変更させられたという曰く付きのデザインでした。ここで整理しなければならないのは、エリアの景観のあり方とその実現手法です。歴史的エリアではそのエリアにもともと存在しないデザインエレメントを排除することにより、一定の景観を維持します。また新興住宅地では使用する材料や色彩等を統一することにより、景観に一定の方向性を与えます。このような法律や条令、協定による規制型の手法では個々のデザイン性を調整するわけではないため、景観形成に質的限界が感じられます。映画の書き割りのように整えられた歴史的な観光地や、何の個性もない家屋が並ぶ住宅地に違和感を覚えるのはこのためです。「イタリア文化会館」の評価では、同質の景観要素で構成された空間に、異質ですがデザイン性の高いエレメントが出現した場合の、受け手側のとまどいや困惑が感じられました。この際、皇居がもつ精神論は議論の横に置きましょう。均一で綺麗だけれど退屈な「地」の中に、ちょっと楽しい「図」がひとつ増えた。私は「イタリア文化会館」をこのように評価します。
島津 勝弘
社団法人日本サインデザイン協会
常任理事
第40回のSDA賞という記念の節目に審査に参加させていただいての所見は、益々サインというカテゴリーの幅広さと、デザインの可能性を感じさせていただいた審査であった。もはや空間デザインという領域においてサインデザインは、空間イメージをも大きく左右する重要なポイントとなって来ている訳であるので、デザイナー自身も新たな再認識をする必要が有るように思う。
自身もそうした視点で、作品を見させていただいたが、とても小さなプロジェクトだが繊細に仕事を進めている作品も有る中で、色使いやタイポグラフィーの詰め甘さが目立った作品も多く見られたあたりが今後の課題でもある。
そうした作品群の中で、大賞を受賞した「富山ライトレール/富山港線トータルデザイン」は自身が関係しているので、客観的に書かせていただくが、行政事業においてあれだけのトータルデザインに取り組み、行政、企業、市民が一体になり、まちづくりのレベルまでデザインが浸透している流れは、サインデザインの枠を超えて大きく評価出来る作品と思える。
最優秀賞を受賞した、九州大学病院/小児医療センターなどは、子供目線を意識されながら緻密にデザインされた作品であった。またヒルトンプラザイーストの工事中サインは、短期間で撤去されるサインであるにも関わらず、遊び心とオシャレなデザインでまとめた、新鮮な作品であった。
優秀賞の受賞作品の中にも、大分県運転免許センターや丸ビル2005年宣伝計画のような、空間それ自体がデザインされている秀作や、清流寺深沢分院やコンラッド東京、パークハイアット/ソウルの計画のような、空間イメージを最小限に削ぎ落とした繊細な手法でまとめられたデザインが、とても心地良く感じた作品であった。
武山 良三
社団法人日本サインデザイン協会
常任理事
今回は4年ぶりに2次審査に参加したが、以前であれば大賞に選ばれてもおかしくないほどの作品が各類の優秀賞から漏れる場面もあるなどデザインレベルの格段の進歩を実感した。高い次元の審査であったが、そんな中でも最初から頭一つ抜けていたのが「富山ライトレール・富山港線トータルデザイン」で、ほぼ満場一致で大賞に決まった。日本では初めてとなる本格的なLRT導入に伴うトータルデザインであるが、電停の公共案内サインから車両、ユニフォーム、プロモーショングッズに至るまで広範囲な項目が丁寧にデザインされていた点、新しく持ち込まれたデザインが地域のまちづくりに活力を与えていた点が高く評価された。“個性化壁”と名付けられた地域性を表現するビジュアルも一般広告と組み合わせることで、広告収入を確保しながら良好な駅環境の形成を実現しており、商業サインの新たな形として注目された。
議論が最も沸騰したのは「イタリア文化会館」であった。千鳥ヶ淵の閑静な地域に赤色の外壁が物議を醸した建築物である。審査にあたっては周辺を歩いてみたが、外壁全面が見えるような場所が見あたらなかった上、色彩も赤というよりは少し抑えたえんじ色といった印象で問題にされるほどの醜悪さは感じなかった。一方、周辺の住居はよく管理されており、住民の町並みに対する愛着も十分伝わってきた。隣接するマンションには確かに色が写り込んでおり、苦情が出されるのも不思議ではなかったが、それは“デザインの善し悪し”よりもその“革新性”への拒否反応や“説明不足”に対する不満ではないかと感じられた。
景観法の趣旨にもあるとおり、まちのデザインを決めるのは行政でも、一建築家でもなく、そこに住まう人達とのコミュニケーションの成果だと考える。反対派でも納得感を持てる“合意形成の進め方”がこれからの課題である。
宮崎 桂
KMD
代表取締役
本年初めて選挙により審査に関わる機会を得、作品を前にして感じたのは、サインはやはり時代を反映しているということであった。
今年の傾向としては、病院などの医療空間のサイン、また、商業系の中でも特にリニューアルのサインが多かったように思う。その反面、公共建築のサインは少なく、公共建築がいかに新築されていないかを物語るようでさみしかった。
大賞は、昨年に引き続き、交通分野のサインであった。「富山ライトレール」のサインは、デザインもさることながら、プロジェクトの実現性に対する困難さに得点のいくばくかを加算したことは確かである。デザインに規模や困難さを考慮するのはおかしいかもしれないが、自身がサインデザインに携わる立場ゆえ、その辺りは大いに気になる点である。公共交通でこのようなデザインレベルが世の中に浸透することは大変すばらしいことであり、そういった意味でも意義深く、総合として否定するところのない優等生的な作品である。
その他、気になったのは「バルーン・コート」という作品である。これはサインというカテゴリーではないが、巨大なバルーンで広場を覆ったパフォーマンス的な作品。実現性という意味でも興味深かった。また、動きのあるサインとして、「モーション・ピクトグラム・インフォメーション」の明解さがよかった。このサインは、ピクトグラム等のデザインという点においてオリジナリティーには欠けるが、リズミカルな動きと音とが一致して何げない中に完成度もある。気張らないお手軽な感じがよい。直ちに実用に即した作品であった。また、「ヒルトンイースト工事中サイン」は実際がどのようになっているのかを知りたいサインであった。ショッピングバッグをテーマにしたサインは海外でも見受けられるが、このサインは電球が入っていたので、紙が燃えたりしないのだろうか、また消防法的にはどうなのかなど、仮設とはいえ実物を見てみたくなる、興味を惹かれるサインであった。
総じてサインとはむずかしいものだ。アイデアにプラスしてもろもろの洪水のような情報がなだれ込んでくる。そういった情報整理を計りつつ、良いサインを作っていくのは並大抵のことではない。その洪水のなかに巻き込まれることなく、客観的にコンセプトを打ち出すこと、そしてそれを表現する創造性、相手を説得する力、何時の場合でもそうした色々な面で強い意志が必要であるということを多くの作品を通じて教えられた。
宮沢 功
社団法人日本サインデザイン協会
常任理事
SDA賞の審査は、回を重ねる毎にサインデザインの質が高くなっていることを実感する。その反面、社会の経済的環境も影響していると思われるが、新しいサインの可能性に挑戦するような作品が少なく審査が難しくなっている。
そのなかでも今年はいくつかの新しい視点の作品が見られた。九州大学病院の小児病棟サイン計画は、サインの記号性を確保しながら子供の病院に他する恐怖心をなくすため、小児病棟の環境そのものの在り方や、コミュニケーションツールの開発などをサイン計画と一体化した点が新しい。
ヒルトンプラザイーストは工事中という仮説環境にあって、必要なサイン機能を確保しながら仮説環境としての空間的演出性を積極的に表現している。
アースロックは映像の持つ機能を存分に駆使し、時刻表示、地球環境情報、広告表示等、次元の違う情報をひとつの時間に配置し、マルチな情報提供を行っている、又、従来問題となりがちな広告機能も全体のデザインの中に組み入れ、時間と広告を取り込んだこれからの情報の在り方を示唆している。
モーションピクトの作品も本来、静止状態で提供する表示情報に、時間という軸を与えることにより、見る人にリズムと説得性を与えより効果的にその機能を表現している。
バルーン・コートは、短期間での場所が持つ記号性を、簡便で低コスト、しかもデザイン的質の高い効果的な表現としている点が評価された。
SDA大賞となった富山ライトレール・富山港線トータルデザインは、路面電車化事業そのものが作る環境的効果を、街づくりのシンボリックなメッセージとすると同時に、市民、企業、行政が連携した、将来にわたる情報伝達プロジェクトとしてSDA大賞に値する。
特別賞となった昭和ネオン高村看板ミュージアムは、現在、様々な技術革新による商業広告のあり方が模索されている状況で、文化的にも質が高く、洒落っ気のある店舗看板を、一企業が収集し保存、公開したことは、これからの理想的な商業広告環境を考える上で、非常に貴重で意味がある。
今年のSDA賞のキーワードは、簡便、時間、演出と情報、コンテクスト、トータルデザインなどが上げられ、新しい機運が見えてきた年ではないかと思う。
山田 晃三
社団法人
日本サインデザイン協会
理事
今年の大賞は圧倒的な支持で「富山ライトレール・富山港線トータルデザイン」が選出された。また公共交通か?とも感じたが、富山という街の玄関口が新種(LRT)の交通機関によって蘇り、市民が誇りに思う風景が誕生したことに社会的意義の大きさを痛感する。広告宣伝の有り様にまで言及したデザインコーディネイトの力に、健全な精神を感じた。このクオリティを事業者や地元のファンがどのように維持発展させて行くか、経営的観点からも興味深い。
次に気を惹いたのが、「九州大学病院2期病棟 小児医療センター」である。絵本の物語を空間化し来訪者の気分を総合的にデザインした実験的試みを評価したい。病院施設という分かりやすさを超えて、精神に与える影響がどの程度のものかは今後の評価を待ちたいと思うが、これまでのSDA賞を受賞した病院環境がどのような効果を上げたかについても、同様に追跡調査の必要があると思う。
「大分県運転免許センター 施設空間デザインシステム開発」は、その徹底したシステムと大胆さを評価したい。同作者による他の物件が応募されていたこともあり、メッセージが分散し新鮮さに欠けたが、全国の運転免許センターの実態を思うとここまでの取り組みは賞賛に値する。これがサンプルとなり事業者を刺激できるといい。
ここに上げた3作品は、何れも公共性の高い施設環境でありながら創造的な姿勢がみられない現状を前に、サインデザインの社会的な役割、ポテンシャルを適切に提示しているものと思う。
対し、コマーシャル部門が新鮮さに欠けた。サインデザインという領域のパワーが、本来この領域には希薄なのではないかという危惧である。ディスプレイや商環境の領域とも重なり、ちまたにはもっと多くの優れた作品があるに違いないと、そう思わざるを得なかった。こだわりの種類、コンセプトに明解さがないのも気になった。
SDA賞の意義は、時代の変遷とともに変わってしかるべきであろう。他のデザイン賞との違いをどこに見いだすかは、サインデザインなる言葉の定義とともに、日々議論する必要があると実感した。
横田 保生
社団法人日本サインデザイン協会
副会長
今年の応募作品は例年にも増して粒ぞろいであった。
審査後半では、おしなべて質の高い作品が残り、各部門から最高賞一点を選ぶのが年々大変になっている。このことは日本のサインの全体的な質が上がった現れだと嬉しく感じている。一方で、低迷している世の動きに対して次の時代を見せてくれるような、新たな価値を提案する頭抜けたサインデザインがそろそろ出てくると期待し、そして叶わなかったのは私だけであろうか。
大賞に選ばれた「富山ライトレール・富山港線トータルデザイン」は、全体を一つのデザインコンセプトで貫くという、今までの縦割り事業では出来なかったことが出来た数少ない作品である。デザイン対象としての地場の公共交通は、街を象徴するにふさわしい要素を多く備えており、地域のアイデンティティーや文化・生活の質を顕在化し、街のデザイン環境や民度の高さを実感しやすい最も効果的なアイテムの一つである。ここでは地元企業や市民の参加が出来る仕組みを作って鉄道と市民の関係を一層強固にし、これに応えようとしている。あらかじめ地場のデザイナーが広告の設置状況を吟味した上で表現を作成し、広告主はそれをスポンサードし、企業名が表示されるという駅個性化スペース企画や、思いやりベンチの寄贈による市民参加の顕在化など、これらが評判良く成就したということは今後の屋外広告のあり方を考える上で非常に重要な実績を残した。
今回はあまりふるわなかった商業系のサインだが、「ヒルトンプラザ イースト 工事中サイン計画」は目を引いた。商業サインは、顧客を措定し、将来の良い関係づくりを期待した少々の媚態的要素が重要で、ここが上品に収まる公的サインと根本的に異なる部分だと思う。しかし、これをうまく表現するのは至難の業である。手提げの紙袋や華やかな花の写真には、施設の一方的な自己主張ではなく、施設が提供する高品質なホスピタリティ・サービスとそれを享受する顧客との目指すべき良い関係が表れていた。
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