Tatsuzo Akase
黎デザインアソシエイツ
関東地区
コモナリティということばをご存じだろうか。わたしがその語に初めて接したのは、2015年ごろ偶然目にした、建築家・塚本由晴らが空間デザインにおける「コモナリティ」の重要性を述べている記事だった。 その数年前の2010年、15年もかかわってやっと完成した横浜ターミナル駅のサインシステムを、わたしはある専門誌に「コモンサイン整備プロジェクト」として紹介した。コモンサインとは、“共用のサイン”ほどの意味で、複数ある鉄道会社の壁を乗り越えて、ターミナル全域で共通様式による情報提供を図ろうというものであった。
コモナリティcommonalityとはコモンcommonの名詞形で、共有性を意味する。塚本の場合、個と公共をつなぐ中間領域を指すものとして用いているようだったが、わたしにはパブリック・デザインの核心を表すことばとして感じられ、「コモナリティ(共有性)」という表現のメッセージ性に強く惹かれた。 わたしは長く自身の仕事はパブリック・デザインだと認識してきた。ドイツ出身の哲学者ハンナ・アーレントによれば、「パブリックpublicに現れるものはすべて、万人によって見られ、聞かれ、可能な限り最も広く公示される」から、そこにあるものはすべて情報として共有される可能性をもっている。
あるパブリック(公開)な場で、見やすくわかりやすく美しく魅力的な造形が作用源となり、つくり手と利用者の間に深いレベルの情報共有が成立すると、その共有性が出発点となって人びとの間にイメージの共有化がはじまる。イメージの共有化がその場を利用する広範な人びとに及ぶと、人びとはコモナリティから昇華したアイデンティティ(その場の固有性)を覚えるようになる。その場のアイデンティティが20年、30年にわたって人びとに投影されると、やがてシビック・プライドとして、地域全体で共感される誇りや満足感さえ生み出せるはずである。
わたし自身手掛けた複数のプロジェクトで、誰にとっても見やすくわかりやすくなるように、もっぱら共有性に着目してデザインしたサインシステムが、年月を経て使用されているうちに、人びとからそのアイデンティティの鮮明さを評価された経験がある。 今後、とりわけ鉄道駅や交通施設、広場、道路、街区、複合地域などのサインデザインにかかわるみなさんに、パブリック・デザインの特質を示す重要なコンセプトワードの一つとして、この「コモナリティ(共有性)」に注目していただけたらと思っている。

