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SDA賞SDA賞

第46回(2012年)SDA賞 受賞作

審査評

横田 保生
公益社団法人日本サインデザイン協会 会長
SDA賞審査委員長
SDA賞は46回の歴史の中で応募部門を改良しながら、それぞれの時代にふさわしい枠組みを作り、サインによる環境整備・都市景観形成など空間の活性化の好例を顕彰してきた。長年、公共サインと商業サインが応募の主な部門として続いてきたが、ここ数年来空間・環境表現部門の応募数が増加している。サインを単なる看板・標識の類いと捉えられがちだった時代から隔世の感がある。折しも今年は日本サインデザイン協会が公益法人として認可され、新たに再出発した年でもある。このSDA賞の審査会でも顕彰すべき内容を時代に沿った公益法人として改めて精査していくという機運が感じられた。
そのような中で大賞に選ばれたのは「日本科学未来館 企画展 世界の終わりの物語 もはや逃れられない73の問い」である。白い三角形の問題提起サインが会場全体の流れを作り、問いに向き合うために用意される最新科学情報が多様な方法でサイン化される。そしてそれに答える観覧者の解答すらも二者選択投票や付箋紙添付などのサイン的手法で提示され、会場全体で行われるサインの応酬によって解答が動いていく様は壮観だ。「東京農業大学世田谷キャンパス新1号館」は多義的になりがちな色彩のサイン化を全面に押し出しながらも、農大ならではの土の色というコンテクストを強調することで、単なる環境演出を超えた説得性があった。「有楽町LOFT」は大量のピクトグラムを主な表示として構築されたサインシステムである。表示対象が観念的なものではなく、商品というモノであることを利用して、アイコンの似たものを表すという特性をうまく生かし切った作品である。「YES, We CAN 東洋製罐本社シンボルサイン」は、上から見下ろしたときだけCANの文字が見えるというしゃれた作品である。また、「トイロ」は十人十色というコンセプトを、十本の木で出来たロゴ・十色のタイポグラフィ・光の混色といった多様な手法で効果的に顕在化していた。これらの上位入賞作品はどれも主張が明確で小気味よい。サインデザインが次の時代に一歩踏み出す予感を感じさせる審査会であった。
青木 淳
株式会社青木淳建築計画事務所
何をサイン・デザインと呼ぶか、簡単ではなくなっている。サイン・デザインの守備範囲がどんどん広がっているからだ。いや、もしもサイン・デザインを「ある環境において、伝えるべき内容をうまく伝えること」とするならば、むしろ、サイン・デザインは最初から、デザインという行為のなかで広大な領域を占めていたわけで、事はそのことを改めて気づかせてくれるようになってきている、とでも言うべきか。
たとえば、大賞を受賞した「日本科学未来館企画展:世界の終わりのものがたり」は、その展覧会のなかの一つの側面、「もはや逃れられない」重い問いを鑑賞者にどううまく伝達するか、という側面に焦点が当てられ、まさにその側面こそがサイン・デザインの問題と捉えられ応募されている。つまり、ここでのサイン・デザインとは、グラフィックにのみとどまるものではなく、展示会場構成、ディスプレイ、イラストレーション、ライティングなど、展覧会全体を横断するあるひとつの切断面を指しているのであり、その定義の仕方そのものに可能性が感じられる。
具体的には、テーマの重さに対して、それに素直に対峙して、襟を正したようなシャープなライティングからはじまって、木々の乱立を思わせる三角錐の構成、グラフィックと次第に軽やかさに移行し、最後には、ポスティングのカジュアルさ、イラストレーションの明るさにまで至る、そのコノテーションの重軽のレンジの広さが、「これは悲しい嬉しいという感情の問題ではなく、しっかりと事実を事実として捉えるべき内容」という、言外の「科学的姿勢」をうまく表している。「科学的姿勢」という目に見えない抽象的なものを、展示=ディスプレイを通して、うまく伝える。そして、それをサイン・デザインと呼ぶ。サイン・デザインがそこに立ちうる広大な領土を宣言する瞬間である。
下川 一哉
日経BP社
日経デザイン編集長
デザインの基本な役割に、「人々の知りたい欲求を満たす」ことがある。商品情報や施設の情報などをグラフィックやサインとしてユーザーに伝えることは、デザインがこれまで得意としてきた分野で、多くのビジネスシーンで活用されている。しかし、2011年3月11日に発生した東日本大震災直後、我々は知りたい欲求を満たされないことに苛立ちを覚えた。数値や構造が示されているのに、それらがどういう意味を持つのか全く分からない。こうした苛立ちの多くは、デザインをうまく活用できていないコミュニケーションによって起こっていることも実感した。
今回のSDA大賞は、人々の知りたい欲求にどう答えるか、に対するデザインの解答にほかならない。空間とグラフィックを駆使して情報を伝えるサインデザインの役割が、問い直されている。リスク先進国と言われる日本が、真剣に考え、発信していくべきデザインの領域に違いない。だからこそ、人々が目を背けたくなるが、知らずには済まされない事実を老若男女にどう伝えるか?といった問いかけにもデザインは答えなければならない。大賞のデザインは、こうした微妙な問題に答えながら、人々が知るということの意味をデザインがもう一度考え直すように諭している。この作品を大賞に選出した意味は大きい。
井原 理安
公益社団法人日本サインデザイン協会 常任理事
デザインの力がどれだけ人に感動を与え、社会生活を豊かにし、利便性をもたらすことだと毎年のSDA賞審査により心をうたれる。サインデザインという行為は様々な人々に対して色々な意味で影響をもたらす訳で、公益社団法人日本サインデザイン協会としてより公益性の高い、公的な目的が重要視されるのだろうか、、。
取り分け、今年度作品を見るとサインデザイン大賞を受賞した日本科学未来館、企画展の『世界の終わりのものがたりーーーもはやの逃れられない73の問い』の作品は東日本大震災から一年を迎える2012年春、科学技術の役割をあらためて問いながら『終わり』から始まる『新たな希望』のものがたりを見いだすという内容の企画展のグラフィックデザインとサイン計画である。イラストやピクトグラムを使ってカラフルに表現しビジュアル的にわかりやすく、社会と人間のかかわりを展示しているのは今年のテーマとしては最大の関心事である。
最優秀賞の千葉県八千代市に位置する総合健診センター『Shinwa medical resort』の作品は楽しいというか、かわいいというか、こんな健診センターなら行ってみたくなるし、健診を待つ間もリラックスな気分になれる。日常どこにでもある光景のハンガーであるがサインとしての発想はユニークで面白い。
同じく最優秀賞の『Yes, We CAN』の本社シンボルサインはダイナミックで造形性、環境との調和、情報性などあらゆる面で優れた作品である。来訪者への安心感、社員にとっての意識高揚などソフト面からも高く評価できる。奨励賞の『川越クレアモール献血ルーム』のサイン計画は赤一色の一筆書き文字やピクトグラムと木目の素材を組み合わせた、わかりやすいサインである。献血をしている間に一筆書きのラインをなぞっている自分がそこにいるようでドキッとする。
同じく奨励賞の慈恵医大葛飾医療センターは葛飾青砥に建てられた総合病院で付近に中川の水辺の風景の中にあり、『中川の流れ』というキーワードのもとに設計されており、人の流れと人の溜まりがサイン配置計画に生かされている。また天井照明と床面サインの連動性など自然と流れにのって導いてくれそうなサイン計画である。
京都嵐山温泉 花伝抄のサインは日本のもてなしの心が伝わってくるサインで、他にも素晴しい作品があり次回が楽しみである。
定村 俊満
公益社団法人日本サインデザイン協会 常任理事
デザインを評価する上で、そのデザインが発信するメッセージ性は大きな要素のひとつである。大賞を受賞した「世界の終わりの物語」はこのメッセージ性が評価されたものだと考える。さまざまなデータをビジュアル化する展示方法や、立体の人形を使った死亡確立の表現、さらにポストイットを利用した市民の参加性等、表現手法の工夫も数多く見られるが、どれも決して斬新なものではなく、グラフィックのクオリティーも抜きん出ているわけではない。それにも関わらずこの作品が多くの支持を得たのは、3.11の震災後、デザインの社会性が問われているという背景がある。これまで経済性や合理性をおもに重視してきた社会と、そしてデザインの価値観が今大きく揺らいでいるのだ。
展示の中にある「テクノロジーの進歩によって消えたものはありますか?」という設問に対して、日本のデザイナーはいまなんと答えるのだろうか?
メッセージ性で光ったもうひとつの作品は「Yes, We Can」である。缶とCanを懸けた軽妙なメッセージと、モダンで且つ暖かいハイレベルのデザイン性は、作者のもつ表現アプローチの豊かさをあらためて感じさせるものであった。
社会の課題の発信と企業メッセージの発信。手づくり感と洗練さ。対局的なふたつのデザインが、設問の答に少しだけヒントを出してくれたような気がしている。
島津 勝弘
公益社団法人日本サインデザイン協会 副会長
本年度の最終審査では、最後の大賞決定議論でシンプルで美しいデザインなのか、社会背景においてデザインがどのような役割をなすべきかという視点で意見は分かれたが、軍配はデザインの役割。
その大賞を受賞した、日本科学未来館での企画展「世界のおわりのものがたり、もはや逃げられない73の問い」長いタイトルであるが、今の日本の社会に向けられた重い質問を、ピクトグラムやカラフルな色彩で子供たちにも考えてもらえるよう、分りやすくデザイン表現されている。予算が潤沢にある企画展であれば、もっと別のデザインになっていたのかも知れないが、限られた予算の中でデザインの役割を明確に示している作品であったのが、評価された結果でもある。
最優秀賞を受賞した作品群にも、健診専門クリニックであるからこそ出来えたユニークなデザインのShinwa medical resort、東京農業大学のシンプルなメッセージをそのまま環境デザインに表現している。
世田谷キャンパス1号館、同じく企業のメッセージをそのまま美しいシンボルに仕上げた東洋製罐本社シンボル、モノトーン環境にカラーシャドウ効果がもたらす動きのデザインを加えたトイロ、店内全体にアイテム商品グラフィックを展開してわくわくする空間となった有楽町LOFTなど、まさにデザインの効果がそのまま企業や空間のメッセージを伝える好例となっていた。
その他、優秀賞や奨励賞にもデザインの表現手法や素材の表現に新たなチャレンジを試みながら、強いメッセージを伝えている作品も多く見られ、益々SDA賞のこれからの広がりと方向性が見えた審査会でもあった。
武山 良三
公益社団法人日本サインデザイン協会 常任理事
SDA賞では、応募パネルの1枚目に作品説明を行うことが求められる。これはSDA賞の審査基準として、審美性や新規性、独創性など意匠に関する外観的評価だけでなく、デザインが行われた背景に対する対処や計画の一貫性、それが与える影響など内包的評価を行うためである。中でも「デザインの社会性」を観点とした議論が行われることが多いが、今回もこの点で議論が白熱した結果、大賞には「日本科学未来館企画展 世界の終わりのものがたり もはや逃れられない73の問い」が選ばれた。2011年3月11日に東日本一帯を襲った未曾有の地震と原発事故を契機として、利便性や効率性を追い求めた社会に対する再考が求められている。同作品は、このことをあらためて考えるという難しい要求に対して、コミュニケーションデザインの手法を総動員して、子供達にも興味を持って観覧できる展覧会にした点が高く評価された。デザインは、経済活動を支援する行為として、商業行為と一体となって発展してきたが、これからは社会活動への対応が重要になることを示唆する作品だった。
特別賞:公益社団法人日本デザイン振興会会長賞を受賞した「FUKUOKAデザインリーグ小学校出前授業・デザインスクールキャラバン」も高い社会性が評価された。既存のデザイン団体や教育機関を連携させたこと、子供達にも理解できるデザイン教育を実践したこと、10年以上継続して実施してきたこと、はデザインの裾野を広げる取り組みとなった。ぜひ他地域へも展開したいプロジェクトだった。
E類優秀賞の「運賃表自動作成システム」も、地味ではあるが、日常生活の快適性を向上させる上で重要なデザインと評価できるものだった。近年、都市部の軌道交通は相互乗り入れや広域化などが進み、運賃表も複雑になる一方である。また、設置スペースもまちまちであるという課題に対して、実践的な調整機能が盛り込まれており、今後の展開が楽しみな作品であった。
宮崎 桂
公益社団法人日本サインデザイン協会 副会長
世の中の経済状況とは裏腹に、今年もSDA賞には多くの応募があった。それはサインデザインが広く一般に浸透している事実として大いに喜ばしいが、気になったこともある。「やりすぎ」と「焼き直し」の作品が目についたのだ。無理からぬことかもしれないが、この時とばかり力んで、あれもこれもと欲張っている作品が少なくない。過ぎたるは及ばざるがごとし、うるさいサインほどいただけないものはないだろう。また、新鮮さに欠ける作品は、上手でも全く魅力を感じなかった。
さて、本年の大賞は「日本科学未来館企画展 世界の終わりのものがたり もはや逃れられない73の問い」といういささかシリアスな展示であった。残念ながら私は本展示を見ていないので、この作品がサインデザインという視点で大賞にふさわしいのかどうか、また応募者がどういったスタンスで関わっているのかなど、パネルの中だけで判断するのは難しかったが、そうしたことを差し置いても、震災をきっかけに浮かび上がった「終わり」というテーマをビジュアル化し、子供にも興味を惹くイラスト等で疑似体験的に問いを浮かび上がらせていく企画は、今までになかっただけに大いに評価できる。受賞理由としては「ひとりひとりが自分の問題として考えよう」と投げかけたこと、そして「今の時代が求めているテーマ」であったことだろう。そしてそれは誰しも身につまされる問いでもあったのだ。
デザインとは時代が反映されていなければならない。道路でも原発でもどんどんプラスしていく時代は終わった。デザイナーもこれを機に「問い」を共有して、マイナスのデザインとは何かを真剣に考えていかねばならない、そうした時代になったのだと思う。
宮沢 功
公益社団法人日本サインデザイン協会 常任理事
今年はSDAが公益社団法人になった記念すべき年であり、SDA賞事業も46回目となった。考えてみればSDAが設立された1965年は屋外広告がその主体であったサインも都市サイン、商業サイン、建築・環境系とその領域を広げてきた、感慨深いものがある。
そういう視点で今年のSDA賞をみると、標準的な機能や質に関してはどの作品も平均以上の出来映えであり、サインデザインがその機能、質の両面で社会的に定着してきたことが伺える。
今年の特徴的傾向として見えてきたのは、基本となる情報の伝達という機能を押さえながら、サイン計画そのものが建築や空間、環境と一体となりその空間を企業や団体のアイデンティティを伝達すべき媒体として捉え表現している作品が目についた。「東京農業大学世田谷キャンパス新1号館」「有楽町LOFT」「TOIRO」「近畿大学39号館(薬学部棟)」「東海関電ビルディング」「竹中工務店名古屋支店:来客ロビー」「mt ex 広島」「慈恵医大葛飾医療センター」等がそうである。これからのサインは今までのような情報そのものを正確に伝える機能に加え、企業や団体が持っている理念や考え方、性格などを感覚的に感じてもらうことも重要な情報として空間全体として表現している。
特に大賞となった「日本化学未来館 企画展 世界の終わりのものがたり もはや逃げられない73の問い」は、とかく暗くなりがちな重い課題に対してわかりやすく、明るく爽やかな表現により実態を伝え、来場者一人一人に前向きに考えることの大切さを感じさせている点で、サインデザインの新しい役割を示唆している。
もうひとつ今後のテーマとして考えなければならないのは「沖縄県与那国町津波注意多言語表示」である。3.11以降、地震国日本の各自治体は津波災害に対する様々な整備を進めている。上記のような感覚的に感じさせるソフトなサインとは対称的にこれらの表示は学習効果も含め日本全国、いや世界の人々が正確に理解出来るような統一した表示の整備が求められる。しかし、未だに全国的に統一された表示システムの整備には至っていない。応募された作品にあるような多言語表示はもとより、表示内容、システムなど全国、世界共通のサインシステムの必要性を切に感じる。公益社団となったSDAはこのような安全・安心に関するサインが、確実に伝達出来るためのサインデザイン・システムを社会に提言する役割が新たに求められている。
渡辺 太郎
公益社団法人日本サインデザイン協会 常任理事
ここ数年良く感じる事だが二次審査に残った作品を見た感想として、空間における「サイン性」の表現の幅の広がり、質の向上を非常に感じる。顕彰事業としてSDA賞は今年で46回目を迎え、公益社団法人となった節目としての今回のSDA賞は、その長い歴史に恥じないダイナミックかつ高水準の作品を多く目にした。惜しくも大賞を逃したが、その企業のアイデンティティを空間の中に表現した『有楽町LOFT』と『mt ex広島』が強く印象に残った。前者はその名のとおり倉庫を思わせる巨大な空間をフレキシブルでグラフィカルな情報によって巧妙に繋ぎ一塊のエンターテーメント的な空間を創出している。後者はメインの会場に至る主要経路である広島電鉄の市電からはじまり会場のある港のデッキ等その他の空間まで、そのブランドであるマスキングテープのグラフィックをインスタレーション的に展開しその非日常感と高揚感を見事に構築している。これらはサインが求められている機能という要素を超え、企業や商品のブランド性を新たな手法によって表現した現代の空間デザインを代表する秀作である。およびその二作品に共通するものとして「時間軸や空間軸で軽やかに変容していける新しい時代のフレキシビリティな空間表現」というものを強く感じる。
その他「2k540」や「六本木アートナイト2012」のようなある期間限定とした仮設性にテーマをおいた作品が入賞の上位を占めていたことは、恒久的に空間(情報)が存続していた時代から、日々、場や情報がアップデートされ更新されていく多様化する現代の社会の縮図を見ているようで、良い意味でも悪い意味でも感慨深い。
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