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SDA賞SDA賞

第43回(2009年)SDA賞 受賞作

審査評

横田保生
社団法人日本サインデザイン協会会長
SDA賞審査委員長
ここ数年来SDA賞の応募作品を見て、サインの質が上がってきたと言い続けて来たように思う。今年度は質が向上した年と言うよりも、むしろ安定成長期から停滞期に入ってきた感がある。まず、入選作品を選出する一次審査会からそれを感じた。例年になく合否を問うボーダーラインに多数の作品が僅差で有り、熾烈な競争が行われた。入選作品の選定でこれほどきめ細かく目配りをし、疲れたのもはじめての経験であった。この傾向は入賞作品でも同様で、どれも高品質ながら停滞期に特有の、どこかにパターン化された類似性を孕み、それが作品の特性を見えにくくしていた。そんな中で、応募総数245点の中から最後の1点として残った「子ども達と成長するサイン基山小学校」がサインデザイン大賞となった。このデザインチームは長年にわたり小学校のサイン計画に取り組んでいるが、今回は地場産の檜をふんだんに使った校舎環境のコンテクストとの折り合いをうまく付け、今までの集大成のような児童参加型のサイン計画である。クラス替え後の最初の作業となる児童達が作るクラス表示サインは単なる記名サインを超えて、クラスのシンボルとなるであろう。「ブルータグ アンド ペーストプロジェクト」もみんなで作る参加型のサインである。使用済みの付箋紙を利用したところは安心感や親しみを感じさせた。「横浜市による横浜駅コモンサイン整備プロジェクト」は、複数の鉄道事業者が共通のスタイルをもったコモンサインでターミナル内全域を整備した我が国初めての例である。コモンスペースにおける利用者主体のサインの在り方を示す重要な作品であった。「オラクル青山センター グリーンプロジェクト」は無味乾燥な階段室を日本のグリーン系の伝統色群で彩色した。案内誘導サインとしての意味情報はきっぱりと除かれ、感性に訴えるイメージ情報に集約した作品である。
不景気が叫ばれる今、サインデザインはそれを逆手に取った知恵で停滞から早く脱して欲しい。
青木 淳
株式会社青木淳建築計画事務所
今回の審査会でもっとも印象的だったのは、「横浜市による横浜駅コモンサイン整備プロジェクト」をどう評価するかをめぐっての議論でした。横浜駅は、ひとつの電鉄会社だけの駅ではありません。JR線、東急東横線、京急線、相鉄線、みなとみらい線、市営地下鉄線と、運営主体の異なる多くの電鉄が集まっている駅です。放っておけば、各社でばらばらなサインを設置するでしょう。そして、分かりにくく、きっと、醜い駅になってしまうことでしょう。そういうなかで、各社の思惑を交通整理し、最大公約数的な共通サインをつくり、共有のコンコース内の情報を整備する。それが、このプロジェクトの中身です。
もし、ある環境なり、状況なり、目的なりに対して、ある特定の質をもったものを与えることをデザインと呼ぶとするならば、このプロジェクトは、かなり特異なところに位置します。なぜなら、特定の質を与えないことこそが、このプロジェクトの目指すところだったと思われるからです。各社とも、自社のアイデンティティを人々に伝えるために、固有の質をもったサインをつくっています。そして、それらばらばらな固有の質が、一ヶ所に集まります。当然、不協和音が響きます。そこに、新たにもうひとつの固有の質を与えれば、ますます耳障りな音になります。だから、新たな質ではなく、今そこにある質の衝突を緩和するような、ニュートラルなサインを導入します。主張はなく、おとなしく、でも、はっきりと情報が伝わるサインの導入です。そのためでしょう。審査会では、社会的意義は認めるけれど、デザインとしては認められない、という意見も出ました。デザインとはある特定の質をもったものを与えること、とすれば、それはたしかにそうなのです。
でも、議論を経て、これは最優秀賞に値する、となりました。デザインは、もはや、ある特定の質をもったものを与えること、というような能天気なものではなく、もっともっと広く、その場の質を意図的にコントロールすること、に変ってきたのです。この評価には、大袈裟に言えば、デザインということの意味についての、大きな見直しが含まれている、とぼくは考えています。
小泉 誠
Koizumi Studio
自分自身の仕事の中でサインに関る仕事が二つあります。ひとつは空間デザインを行なった場合の機能や用途を促す為のサイン。もうひとつは地名案内板や他者の空間での既存環境に関るサインです。前者は自身の空間理念をもとにサインのあり方を構築でき、具体的な情報以外で用途を促す事が可能です。優秀賞の「中勢以」は、精肉店として商品を劇的に見せる事で商店の特色と購買意欲を促す効果がありその好例でした。後者は既存の環境を把握した上で情報編集を行ない、サインデザインの力量が問われる仕事です。今回応募の多くがこの領域でした。入賞された仕事の殆どが環境を捉え見事に情報編集が行なわれた秀作で、日本のサインデザインのレベルの高さを改めて感じる事が出来ました。ただ応募された仕事の中にはコンセプトとしての評価は出来るものの「実体」として現れたサインの姿に疑問を感じるものも数多く、さらなるサインデザインの向上が望まれるところでもあります。ただ、これもサインデザインだけの問題ではなく、環境(建築)とサインの計画プロセスに大きな問題があるのではないかとも感じています。
大賞の「基山小学校」と優秀賞の「旭はるかぜ保育園」は、前記の二つの領域とはまた違うアプローチでした。サインと子供達が関る事で、サインという機能が、個人の空間領域の意識まで変えることが行なわれ優れたインタラクティブメディアとして評価されました。
小島良平
小島良平デザイン事務所
上海で設計デザインされたオフィスビルですが、デザインの解決方法の方法論がこの近代的なビルにECOを中心に据えて展開されてある。全体に「白」を基調にモダンで清潔な演出が各所にデザインされている。古くなりがちなパターンをモダンな切り口でサインが「私はここに在る」という存在感より自然に視線や動線に合わせて設計されてあるので心もフリーになれる要素がデザイン上配慮されている。
昨年は視覚や技術を新しくサイン上に示されてテクノロジーと現代という関係がいろいろ見られたが、今年はベーシックにも配慮されたデザインをしっかりと審査する事が出来た。
下川一哉
日経BP社
日経デザイン編集長
今回、初めて「SDA賞」の審査会にゲスト審査員として参加した。審査員間に無用の遠慮や垣根のない審査会の雰囲気は明るく、議論のしやすい空気に包まれていたことが印象的だった。サインデザインとはなにか? サインデザインは今後どうあるべきか?を真剣に考える時間に恵まれたことは、貴重な経験になった。
審査の過程で痛感したのは、「サインデザインの概念や領域が広がっている」ということだ。街や建物の中で、人々に必要な情報を明確に示すという役割を果たしながら、人々の身体や精神に優しく作用するデザインに目を留めずにはいられなかった。玩具や文具のようなプロダクトデザインの考えを取り入れたサインデザイン。あるいは、家具のデザインを取り入れたサインデザイン。広告などのコミュニケーションデザインの領域に踏み込んだデザイン―。こうしたデザインが、サインデザインを出発点としながら数多く生まれていることに大きく心を揺さぶられた。サインデザインは進化している―。こうした動きをとらえ、社会に発信するSDA賞の意義も同時に理解できた。
今も強く印象に残っているのが、私が審査員特別賞「下川一哉賞」に選んだ「Kuro」。黒いサインボードとベンチのような本体に、移動のための車輪が付いている。移動式で、座れるサイン―。設置の目的や使い方によっては、サインデザインのあり方は変わる。その際に、家具やエクステリア、モビリティーなど、さまざまな領域に踏み込むことで、可能性は広がる。一見荒削りなデザインで、完成度については疑問もあるが、こうした点を明示したことがKuroの価値だと思う。
井原理安
社団法人日本サインデザイン協会 常任理事
第43回(2009年)SDA賞の審査を終えて感じたことは、一つは優れた作品がどの応募部門にも数多くあるが飛び抜けて優秀な作品は少なかった。二つめは応募部門の分類と審査基準としての評価の方法である。近年は広義としてサインの見方が高まり、建築もランドスケープもグラフィックも、その他あらゆるツールの作品が応募分類の名のもと審査することに対して検討することが求められつつある。そして三つめは審査方法である。現在、公開審査をとっているが、作品応募者が審査員の場合の審査方法としての仕組みである。SDA賞はSDA会員が応募者であり審査員になる場合が多い。特に最終審査に残ってくる作品はその傾向にあるが、反面サインデザインというレベルを上げ、サインデザインを通じて業界全体のリーダー的役割をはたしてきていることも事実である。そういう意味で現在のSDA賞のあり方を根本的に見直す時期かも知れない。ともあれ第43回の審査として、サインデザイン大賞にノミネートされた幾つかの作品の中から「子ども達と成長するサイン基山小学校」が選ばれた。小学校のサインというとイラストやきれいな色彩のグラフィック的手法のサインが数多く入賞したが、この作品は子ども達と、2-wayなcommunicationとして、サインと子ども達がともに成長していくという点で希望があり、夢があり、きっとこの小学校の子ども達はサインの大好きな大人になることを期待したい。もう一つ気になった作品が「いのちを見守るコミュンケーションデザイン」である。病院内の表だったところのサインは計画されているが、病室ベッドまわりのサインという点で、患者とのコミュニケーションを繋げる手法はどれだけ安心感を与えることでしょう。いのちを見守る、つまり看る看護の精神であるナイチンゲールの「見守り」は、これらのベッドまわりのサインに込められていて、こんな病院が数多く増えてほしい。気になる作品はまだあるものの、最後に入賞、入選の応募者の皆さんへおめでとうと申し上げます。
定村俊満
社団法人日本サインデザイン協会 常任理事
まず「横浜市による横浜駅コモンサイン整備プロジェクト」の関係者に心からの賛辞を贈ります。JR東日本の所有空間に、ある意味では競合となる京急線、地下鉄線などの情報を平等に掲出した当プロジェクトは、公共交通機関のサインシステムの成熟に大きな貢献を果たしました。大勢の人が多様な交通機関を利用するターミナル駅では、一事業者が管理区域内だけの案内をおこなっても、十分な情報提供とはいえません。利用者は複数の交通機関を円滑に乗り継ぐための連続的な情報が必要なのです。しかしいかに公共交通事業者といえども、自社所有区分域内に他事業者の情報を掲出することに対しては、大きな抵抗があったはずです。横浜市をはじめ、国土交通省や専門のコンサルタントの粘り強い説得努力が実を結んだのでしょう。いわば社会正義が企業エゴを乗り越えたということになるのかもしれません。また最終的には利用者の利便性を優先するコモンサインの採用に踏み切ったJR東日本にも大きな拍手を贈りたいと思います。このプロジェクトの成果が日本中のターミナル駅に波及することを心から期待します。
「いのちを見守るコミュニケーションデザイン」は医療事故やミスの原因のひとつになっていた病院のベッドまわりの情報を整理し、
ピクトグラムによる確実な情報伝達を実現したものです。今後このシステムが標準化され、社会に広く採用されることを願います。
昨年の「WATER LOGO」のようなアートフルなサインに比べ、今年は社会性の高いデザインが目立ちました。サインデザインで社会を育てていく、このようなプロジェクトが今後もますます活発になってほしいと思います。
島津勝弘
社団法人日本サインデザイン協会 副会長
例年のSDA賞の応募は、比較的公共部門への応募が多いのですが、今年は個性的な民間プロジェクトの応募が審査の中で目立ったような感じであった。また最終の二次審査に参加していると、今年はこの作品が大賞ではという2~3点の際立つ応募作が目に止まるのだが、今年に限ってはそうした印象があまり無くレベルが均衡していたのではとも思う。最終そういう事も有り、最優秀作品から大賞を決める議論にも影響が出て、決戦投票にて半数以上の票にまで至らなかったのが、少々残念であった。
しかしながら、今回大賞を受賞した「子ども達と成長するサイン基山小学校」は、子ども達と地域に価値を見いだすすばらしい作品であった。ただ美しいだけ、モダンで格好良いサインではなく、学校の主人公となる子ども達のために、何が必要で、何を伝えなければという疑問を素直にデザインに盛り込んでもらえたことが、受賞の大きな要因ではないだろうか。これからはこうしたデザインが、もっともっと世の中で評価されるべきであり、私達も見落とす事のないように心がけなければならないと思う。
最優秀賞を受賞した作品にも、社会にメッセージを残しデザイン性の高いプロジェクトや取り組みであった。「横浜市による横浜駅コモンサイン整備プロジェクト」は、行政や民間の狭間で中々取り組めそうで取り組めない要素を実現出来たところに大きな評価があるのである。「オラクル青山センターグリーンプロジェクト」は、表舞台ではないバック階段にコンセプトを持たせてカラー計画するというこれまでに無い印象に残る取り組みである。「ブルータグアンドペーストプロジェクト」などは、企業としてこのような取り組みが出来そうで出来ない事を、やり遂げたところに拍手である。「YUDA ART PROJECT」は、湯田の温泉街に限らず地方の街にこうしたデザインの切り口でのチャレンジは、もっと評価するべき取り組みだと思う。「いのちを見守るコミュニケーションデザイン」は、これからの医療環境にサインという視点が評価される時代を予感させる取り組みである。
また優秀賞や奨励賞を受賞した作品類も、印象に残り評価するべきデザインも多く、シンプルなデザインコンセプトが社会の中に人の心に訴えかけることで、デザインに価値を見いだし評価される時代が来ているように思う。今年度応募の作品群を見ていて、サインデザインのさらなる目標値が垣間みれたような審査会でもあった。
武山良三
社団法人日本サインデザイン協会 常任理事
応募作品のレベルが毎年これでもかと言うほど上がる中で、特に印象に残った作品が2つある。ひとつは「オラクル青山センターグリーンプロジェクト(以下オラクル青山)」、もうひとつは「YUDA ART PROJECT(以下YUDA)」だ。共にあるようでなかった色彩の使い方が新鮮であった。
オラクル青山は、IT系企業のオフィスビルの階段室に施された色彩計画だが、緑系で統一されながらすべて違う色を用いている点が出色だ。恐らく「2,3階の移動は階段を使いましょう」といったたぐいの指示が出されているのだろうが、階段室を開ける度に違う色がぱっと現れたら、これはなかなかどうして楽しく、エコキャンペーンも成果が上がるのではと思われた。グリーン系の色彩というのも、非常口というシンボル性と、モニターとにらめっこして疲れた目を癒すための機能色として、ここではこの色しかないように思われた。そして何よりそのトーンが生み出すハーモニーが美しかった。
YUDAは山口県山口市、温泉地の活性化イベントで展開されたサインだ。提灯がメインのサインとして用いられているが、通常は赤や白を連想するところに鮮やかな青を用いたところが「やられた〜!」と感じた。モダンなタイプフェイスも手伝って、地方でありながらとても都会的な雰囲気がつくられていた。このようにモダンなデザインが加わることによって褪せた町屋も何やら生き生きと見えてくるから面白い。地域に残された資源を再評価する機会を創出したプロジェクトとしても評価した。
色彩の活用では、「副都心線渋谷駅サイン計画」のマゼンダとグリーンのコンビネーションもこれまでにないインパクトがあった。公共交通のサインには色彩が記号として活用されてきた実績があるが、ここまでヴィヴィッドな組み合わせは初めてだろう。設置された場所が渋谷ということを考えれば、「らしい」サインと評価されるだろう。
宮崎 桂
社団法人日本サインデザイン協会 副会長
今年の応募は公共部門が少なく、景気後退の影響を受けて、公共建築のサインや自治体の景観サインが激減していることが浮き彫りとなった。ここ数年目立った福祉や医療などのサインも減りつつある中で、唯一目立ったのは学校のサインである。少子化に伴い教育施設の充実が昨今の課題となり、かつてはローコストであまり着目されなかった学校建築の個性化が図られている。今年の大賞、基山小学校のサインもまさにそうした時代の申し子と言える。この作品の良いところは、子供たちが「サイン」というものに関心を持ち、サインに触れながら育つ環境づくりの一環として役立つ教育的な役割である。一方的な押しつけでなく子供に参加させることに意義を持たせた計画だ。これに限らず、参加型や双方向性のサインはこれからますます増えていく傾向にあり、デザイン性はともかく全般的に行動を伴ったサインのあり方を問う時代になっている。
応募作品全般として特徴的だったのは、作品のレベルがそろっていたことである。良くも悪くもどんぐりの背比べで、抜きん出ているものがなかった。特に受賞作品はどれも現代の日本をリードしていくデザインではあるものの、その中での優劣の差がきわめて少ない。それはある意味、サインデザインというものが普及の時代を過ぎ、ある一定のクォリティーをもって確実に世の中に浸透し、見慣れたものになっている証拠である。今やサインにおいて、わかりやすいとか美しいと言ったことは当たり前で、今回の審査では、審美性や機能以外の観点から、掘り出しものをすくい上げるように、新しい傾向やサインが創られた背景や行動を読み取り、選択していく傾向が強かった。また、応募作品と既存のサインとの類似性も議論の的となった。そうした中で、私が興味を持ったのは、廃材を利用した「かごしま環境未来館」と、平面から立体を形成する「イベント用の紙帽子」で、どちらも着眼点と造形性の両立という点を評価したい。また、「ハラミュージアムアークサイン計画」「YUDA ART PROJECT」「オラクル青山センターグリーンプロジェクト」は、特別なアイデアではないものの優秀な作品である。
不況下にあってもデザインとはいろいろな可能性をはらんでいる。ローコストであればあるほど、デザイン自体がストレートに表出してくるともいえる。創る側も見る側も価値や判断基準は多様化しており、一様に良い悪いと決めつけることがむずかしい。時代はまさに欲張りに多方面での「オリジナリティー」を求めているようだ。
宮沢 功
社団法人日本サインデザイン協会 常任理事
最近のSDA賞は全体の質が向上している反面、突出した作品が少なく安定した感がある。そんな中で静止情報としてのサイン機能に対し利用者の参加や時間の経過、空間の演出的効果を情報伝達媒体として取り込み、人の記憶に対する効果を考えた作品と、ほぼ成熟した公共サインの中で今まで課題が多くなかなか解決出来なかった部分に挑戦し、より高い公共性を提案した作品に注目したい。
大賞となった基山小学校の「子供たちと成長するサイン」は六年間の学校生活の中で、一年毎のクラス替えの機会に友達と木をはめ変える事により新しい表示をつくるという仕組みは、表示機能に加え六年間の学校生活の経験、思い出や事柄を記憶するための機能を与え、サインシステムを記憶のための道具としたところがユニークである。「オラクル青山センターグリーンプロジェクト」は無味乾燥な階段室に対し、グリーンをテーマとした微妙に変化する色彩により、毎日の行動から上下の方向感を感じさせようとするものである。「Leafy Shade」は部屋毎の空間を異なるインテリアイメージで表現し、印象の違いを情報として機能させようとしたもので、両作品とも感覚的には曖昧な空間の演出的要因を情報として活用しているところがユニークである。
一方、複数事業者を横断的に取り込む事により高い公共性を確保した「横浜市による横浜駅コモンサイン整備プロジェクト」は、公共環境の行動拠点として非常に重要なターミナル駅の地下空間に対する作品である。複数の地権者、複雑で入り組んだ空間、人が集散し経済効果の高いターミナル駅の地下空間は、安全でわかりやすい連続した行動を担保するサインシステムの計画が難しい。そのような課題に対し粘り強い調整とわかりやすいサインデザインの提案により解決した優れた作品である。「福岡市都市サインシステムの活用」は今までの都市サインをベースに、より読みやすくすると同時に、福岡市に関する多くの案内誘導サインの基本的内容のルール化をはかり一般の活用を促進し、市全体としてわかりやすい情報環境を作ろうと計画されたもので今後の公共サインの方向を示唆している。
渡辺太郎
社団法人日本サインデザイン協会 常任理事
昨今良く言われるように、デザイン領域のボーダレス化が顕著でありサインデザインとしての絶対的な評価が難しくなった事はここ数年来のSDA賞の審査に携わって肌で感じている事だが、今年度の審査ではサインの新しい解釈に挑戦した作品より、ベーシックなサインの原点に立ち戻った作品が多く入賞を占めたことに、ここ数年来の傾向とまた違った側面を感じた。大賞を受賞した「子供たちと成長するサイン 基山小学校」は過去何度も入賞した同作者の小学校シリーズの最新作であり、長年の蓄積した教育の場での新しいデザインコードの集大成ともいえる見事な作品である。また入賞作品の「横浜駅コモンサイン整備プロジェクト」や「副都心線渋谷駅サイン計画」「福岡市都市サインシステムの活用」等、どの作品にも経験豊かな熟達したデザイナーが長年培ったスキルを思う存分発揮した公共空間の今日性をうまくとらえたサイン計画としておおいに評価するべきプロジェクトであろう。一見目新しいものに目を奪われ見落としてしまうこれらの普遍的な価値を、しっかりと評価する事もSDA賞の評価軸の一つである「サインにおける社会貢献」という側面で非常に意義ある事と捉えられよう。一方「Leafy shade」「アステラス製薬つくば研究センター」といった世界水準を超えたデザインのクオリティには目をみはるものがあり、いまや日本の空間デザインは世界に誇れるものにまでになったことも予感させられた。総体的には先進性という切口での新しい情報価値を表現した作品が少なかった事は残念だったが、どれも粒ぞろいでどれが入賞をしてもおかしくないぐらいの、サインデザインの底辺がずいぶんと底上げされた印象を受けた。しかしながらその反面、この作品が大賞にまさに相応しいと言った、理屈を凌駕するほどの時代性をもった作品がなかったことも事実でぜひそのあたりを次回に期待したい。
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