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Japan Sign Design Association Official Website

SDA賞SDA賞

第39回(2005年)SDA賞 受賞作

審査評

井原 理安
社団法人
日本サインデザイン協会会長
 今年度の応募作品は愛知万博関連や公共事業の優れた作品が目に止まった。このことは時代を反映しサインのもつ役割や意義が理解され、さらなる探求が必要となることを確信する。SDA大賞の候補として公共交通機関のユニバーサルデザインを強調した「福岡市営地下鉄七隈線トータルデザイン」と、空間にやさしく、質の高いグラフィックで表現され分かりやすいサインシステムの「東京北社会保険病院サイン計画」、LEDによる高輝度で見やすい文字デザインの「JR東日本新宿駅フルカラーLED発車標文字デザイン」の3作品である。審査員全員が高く評価した「福岡市営地下鉄七隈線トータルデザイン」がSDA大賞となり、その理由として、この作品のプロジェクトとしての仕組みであった。
 大賞作品の選評でも記載しているが、10年間に渡ってトータルデザインに挑戦し続けた福岡市交通局の熱意は今後サインに携わるものとして大きな励みになる。そして建築やサインを含めた様々な用途のデザインが地域性を考慮し細部にいたるまできめ細かく、トータルで計画されている。そういう意味では公共交通機関のお手本となる作品である。
 優秀賞の「東京大学コミュニケーションセンター」は従来の大学のもつイメージを新しい手法でコミュニケートする方法として評価出来る。準優秀賞の「野々市町新庁舎サイン計画」の作品は道標的なイメージをシンプルな形態で地球性を取り入れた色彩計画(加賀五彩)を用いてキレの良い分かりやすいデザインである。大賞候補として最後まで残った優秀賞の「東京北社会保険病院サイン計画」は患者の立場に立って、リラクゼーションや気分転換に導き「癒し」に対する優しく心地良い環境づくりであり、そして緑の自然をテーマに生命感溢れるデザインで評価は高い。
 全般的にサインシステム部門はかなりのレベルの作品が集っているが、単体サインや企画技術開発も優れた作品が応募されることを期待したい。
勝尾 岳彦
日経BP
「日経デザイン」編集長
 SDA賞の審査は、毎回難しい。ある意味で、年を追う毎に難しくなっていきている。応募作品のレベルが全体に上がっており、質の面で飛びぬけていて、審査員全員が躊躇無く大賞に推す作品は少ない。その中で、審査員は常に“サインデザインとは何か”という問題に対峙しながら審査を進めていく。
 今年のサインデザイン大賞には、「福岡市営地下鉄七隈線トータルデザイン」が選ばれた。オーソドックスではあるが、非常に緻密に計画され、ユニバーサルデザインへの配慮も行き届いた完成度の高い作品で、サインデザインの王道を行くようなこの作品が選ばれたことを喜ばしく思う。空間の象徴性が評価され、昨年大賞に選ばれた「LANVIN BUTIQUE GINZA」と対比してみると対照的で、現在サインデザインという領域が抱える幅の広さ、SDA賞の懐の深さと同時に、審査の軸のかすかなブレを感じさせる。領域の区別や審査基準を含め、賞のあり方を見直す時期に来ているのかも知れない。
 個人的に興味を持ったのは、「東京大学コミュニケーションセンター」のデザイン展開の事例だ。大学の独立行政法人化に伴い、著名な国立大学といえども社会に対して自分たちの活動を正しく理解してもらうためのアピールが必要になってきている。近年、大学サインの応募も数多いが、このような事例は今後ますます増えてくるだろう。また、「JR東日本新宿駅フルカラーLED発車票 文字デザイン」は限られたドット数の中で、美しく、見やすい文字のあり方を工夫した労作だ。今後、増えるであろう、このようなサインの参考になる良い事例だと思う。
佐藤 晃一
株式会社佐藤晃一
デザイン室
 この審査会に参加するようになって4年目だが、この4年の間にも入賞作品のレベルは着実に洗練の度を増していることを実感している。同じ思いはサインデザインに限らず、日々の生活の中でもよく感じることで、以前はデザイナーたちの特別な美意識であるかのようにも思われていた「デザイン」が、今日では日常の生活や情報の中に相当なクオリティで実現されていることに今さらのように驚いている。
 特に今年は愛知万博や中部国際空港開港をはじめ、いくつかの大きなプロジェクトも加わり、量質ともに充実感があった。万博関連の中では「長久手日本館」の竹によるドーム状の建築の、その形状の異様さに、この万博のテーマ性を考える時、知のたくまざるユーモアを感じ、デコボコ頭の山脈のようなフォルムを、自分が縄文人になったように楽しんだ。この場合、この建築デザインはサインデザインと見なしても良いだろう。しかしこれはもう見る側の創造性の問題だから、人によって意見が分かれるかも知れない。
 フォルムのユーモアという点では、東京大学コミュニケーションセンターのシンボルマークの表情が忘れられない。造形のエレメントは幾可的に組み立てられているのだが、この丸いマークを見た印象には、どことなくあの黄色い笑顔のニコちゃんマーク(smile face)を見ているような表情が宿っている。「東大」と「ニコちゃんマーク」のダブルイメージ、これも見る側の勝手な解釈かも知れないが、大学がこのフィーリングを採用したのだから、やっぱり現実は相当クスンでいるのだと、今さらのように驚くのである。
横田 保夫
社団法人
日本サインデザイン協会
副会長
 サインは時として、注目されたいが故に、過剰な表現や短命な演出に流されてしまうことがある。例年の審査の中でも、上位に位置する作品群にさえそのような衒った点がつい固についてしまうものだ。しかし、今年の審査では、そんな作品が最終の議論の対象として上がってくることは無かった。近年のスローフード運動ような、基本に立ち戻りつつ暮らしの美学を楽しく創造していく時代志向が影響しているのだろうか。無責任に量やスピードを歌いあげる作品は陰をひそめ、最終選考に残った作品はどれも真面目でひたむきであるという印象を受けた。
 大賞に輝いた「福岡市営地下鉄七隈線トータルデザイン」や、優秀賞となった「東京北社会保険病院サイン計画」は多用な要素を巧みにひとつのシステムにまとめ上げ、細部にまでも良く配慮されていた計画であった。多様で長期にわたる工期の中で、建築から各種設備、什器備品にいたるまで、施設全般にわたって統ーした志向のもとにぶれること無く実現化を果たしていることは称賛に値する。ここでは掲示機や標識だけがサインではない。曲面壁や突起を減らした設置方法、反射を避けた表面処理など様々な箇所で記号化が行われ、それらも統合してサインシステムとなることで空間を語り伝えることのできる固有のしつらえ感覚がここにはある。両者のイメージ目標は、それぞれ地域性と癒しという遣いはあるが、両者とも人にたいする優しさを設計指針の根底に持っていることは、この時代に於いて偶然では無いと思う。
 また、その他の作品では、文字に対する気配りが例年になく強く感じられた。「JR東日本新宿駅フルカラーLED発車標文字デザイン」「丸善丸の内本店」では、真っ向からサインにおける文字に取り組んでいる。このような動きが今後なお盛んになっていくことを願っている。
定村 俊満
社団法人
日本サインデザイン協会
副会長
 空間におけるコミュニケーションを着実に支える成熟型のサイン計画と、次世代のサインのあり方を示唆するパイロット型のデザインとの対比が目立った年であった。
 前者の代表は「中部国際空港旅客ターミナルビル」と「東京ビッグサイト案内サイン改善計画」である。共通の特徴は、広大な空間の中で大量の人の動きをいかに確実にサポートできるか、というある意味でサイン計画がもつ普遍的な課題に正面から取り組んでいることである。ともすればバランスを欠き、粗野になりがちな巨大空間における情報提示を、職人的な緻密さでまとめ上げる手腕は、数多い経験をもつベテランの仕事である。
 もう一方の代表は「愛・地球博 長久手日本館サインデザイン」「愛知万博サイン計画」「装植物 2005 EXPO OBJECTIC BANNER」の万博関連サインである。石油系の材料ではなく、植物を利用した有機素材を構造体と表示面に採用したサイン・ファニチュア類は、未来型のシステムを提示するという万博にふさわしく、サインにおけるエコロジーの考え方が示されていた。
 また新しい試みとしては「JR東日本新宿駅フルカラーLED発車標文字デザイン」がある。公共交通機関の駅におけるサイン類の中でも、発車標は他のサイン類と管理主体が違うため、デザインの対象になりにくく、さらにその表示面のLED文字のデザインとなると、かなりの覚悟で発案しなければ実現できない作業である。まずこの執念に拍手を贈るとともに、美しいフォントによる表示を可能にした今回の成果が、鉄道だけではなく他のLEDメディアに広く展開されることを期待する。
 大賞の「福岡市営地下鉄七隈線トータルデザイン」はデザインとしての派手さはないが、パブリックデザインのひとつのスタンダードを示したプロジェクトであったと考える。
斉藤 明男
社団法人
日本サインデザイン協会
専務理事
 近年の審査評で共通した感想として見受けられるのが、作品全体のレベルが向上したため、順位づけを求められる評価に苦慮するとのことである。
 頭抜けて一致した評価を受ける作品は稀であることもあるが、空間を取込んだ発信情報(サイン性)の表現手法が、熟成の域に到達していることも見逃せない要因の一つと思える。また、応募分類にパブリック部門、コマーシャル部門などのジャンル区分内に、各々、単体とシステムがあるのも、応募者のみならず審査側も、応募の分類選択が適正なのか困惑することもあるようである。幾度となく言われていることであるが、サインは人と空間を繋ぐインターフエースであり、普遍的で持続可能な機能を有する、装置であり続けなければならない使命と側面をもっていると考える。
 その観点を、サインデザイン大賞を受賞した「福岡市営地下鉄七隈線トータルデザイン」に投影してみると、見事に一致した部位が随所に見られた。
 計画スタートから完成まで10年という長い歳月に、一領域であるサイン分野を超越し、環境を含めトータルにデザインするという飽くなき姿勢が、完成度の高い作品に仕上げている。特に利用者側の行動パターンを十分に検証し到達した、誰でもが快適に利用できる、ユニバーサルデザインに配慮したサインシステムである。閉鎖的で息の詰まる空間という先入観を払拭させる、自然光をふんだんに取込む建築手法や、見通しを確保する物理的対処、わかりやすく記憶に残る情報提供を実現するため、空間を記号化したり個性化する試みなどトータルデザインに徹したワクワクする作品である。
 優秀賞の3部門8類の枠では、5類が受賞の対象となったが、内4作品がディスプレィ系2、グラフィック系2と応募者の領域拡大が顕著に表われている。今年度は、2005愛知万博が開催された年であり、関連の応募作品が多数あり審査会場を賑わせた。「愛・地球博 長久手日本館サインデザイン」は、数あるパビリオンの中でも、異色のデザインを纏った大胆ファサードを背景に、繊細な表現のIDサインが環境博にふさわしい印象を与えていた。「東京北社会保険病院サイン計画」は、病院のサイン計画にありがちな、コンパクトで多様性を追求したシステム計画とは異なり、外来空間が、樹木が程よく生い茂げ、爽やかな風が吹き抜ける、往来とみまちがう程の、心地よい空間演出が、機能を満たしたサインによって表現されている。
 環境問題を意識せずには何事もスタートできないほど、日々の生活、ビジネスのあらゆるシーンでそのテーマが喚起される。愛・地球博が開催された今年、特に顕著に作品に反映されている気がした。Reduse・Reuse・Recycleの循環で、デザインが積極的に関われるのが、始めのReduseだから。
杉田 圭司
社団法人
日本サインデザイン協会
常任理事
 今年度の特長としては日本国際博覧会である“愛・地球博”に関係する応募が多いことと、全体に質が高く、その中でもサインシステム部門が特に優れた作品が多く充実した年になった。サインデザイン大賞は「福岡市営地下鉄七隈線トータルデザイン」に決定した。この仕事は10年に及ぶ事業であり土木、建築、サイン、設備を含むトータルな取り組みで、公共交通機関のユニバーサルデザインとしてのクオリティーとスケールは、希にみる実例として全員一致で決定された。質と内容に於て10年間の集大成としても評価され決定した。又特別賞にもノミネートされ「福岡市地下鉄3号線JVグループによる公共交通機関のユニバーサルデザイン」の冊子に与えられた。A-2類優秀賞「東京北社会保険病院サイン計画」は自然の造形と色彩のグラフィックが、とてもやさしく、爽やかであり、サインの表示も控えめで良い。そして病院としての精神的な癒しの空間演出が求められる施設の対応として、今後の同様の施設に対しての模範である。A-3類優秀賞「愛・地球博 長久手日本館サインデザイン」も環境博に相応しいパビリオンと相俟ったサインデザインで優秀であった。C-1類凖優秀賞「愛知万博サイン計画」も布を使用した仮設(短期間使用)としての催事サインとして機能的であり、形態も美しい。同様のサインはつくば科学博でも実証されている。又C-2類凖優秀賞「愛・地球博長久手会場の装植物」は会場グローバルコモンの世界各国のパビリオン周辺に設置され、オシャレなモニュメント装飾物で、楽しさの演出としての造形と色彩は大変ユニークで美しい。布を上手に使った有機的な造形はバナーと相俟って会場の中で存在感があった。その他の万博関連の入選作品も様々あり特長的であった。A-2類奨励賞「東京ビッグサイト案内サイン改善計画」は特にサインシステムとして目新しい提案性は認められないが、円熟した完成度と手堅い仕事とスケールは評価に値する。最後に特別賞「CSデザイン賞の公募活動」に対しては、20年間に渡る企業のカッティングシートの普及啓蒙活動の一環としての継続的活動は社会的にも、デザイン業界にとっても大変意義深いものがあるとして受賞した。おめでとうございました。
森 一 紘
社団法人
日本サインデザイン協会
常任理事
 ここ数年、審査をしていて私が感じていることを書きたいと思います。落選した作品でも上手にパネルにまとめられているので一見よく見えます。また、肝心の作品そのもののアイデアや機能性や斬新さといったものがなくなったわけでもありません。しかし、どこかで見たような感があって作品そのものが何となく均一的に見えてしまう作品が増えてきています。逆に作者の念がこもっていて、ハッとしたり、ある種のオーラが出ていて心をグッとつかまれたりするような作品がなくなっているのがとても残念です。
 このように作品から気迫が消えていく現象は中国地区で行われていたデザインネットワーク広島の学生卒業展デザイン賞でもみられました。学生とプロを比較するのは語弊があるでしょうが、この学生の作品の均一化とSDA賞の作品からオーラが消えたのには共通する原因があるように思います。
 原因の一つはパソコンだと感じています。たとえ失敗したとしても何度でもやり直しが効くパソコンで描いた図面とロットリングを使って書き上げた図面とでは明らかに気合の差が作品に表れます。私たちのデザイン作業もデジタル化は日常的になり、能率的で実用性があっていいのですが、アプリケーションソフトの機能に依存した仕上がりには表現の限界があるため作品がどことなく均一的になってしまうことは否めません。このことは私自身も反省が必要なのであまり強く言えないのですが・・・、SDA賞は“モノづくり”であるということを再認識した上での賞であって欲しいと願う今日この頃です。
 言い換えると機械が作るのでなく人間の五感で創る作品が多く出品されて欲しいのです。
渡辺 太郎
社団法人
日本サインデザイン協会
常任理事
 本来「サイン」というものの性質はその情報性であり、目に見えるもの(文字や形や色など)又、目に見えないもの(光や空気や音までも)サインとしてとらえることができる。ということはもともとサインというものが一つの評価軸線上で評価できるものでなく、そこに優劣をつける審査というものは困難をきわめる。これはサインというもののもって生まれた宿命であり、昨今それが応募作品の多様化(領域の拡大化)という現状に審査のカテゴライズが追いつけない状況にある。「情報」という定義が迷走している現代社会のなかで「サインデザイン」というものは表裏一体の関係にありSDA賞の評価軸も交通整理する時期に来ているように思える。
 そういった今回の審査の中で非常に印象に残った作品に優秀賞に選ばれた「東京北社会保健病院」と「JR東日本新宿駅フルカラーLED発車標」があった。両作品とも先に述べた目に見える情報(文字)というものに対し文字の誘目性、判別性、可読性という情報デザインの最低限の条件としての文字の美しさと機能について、真摯に取り組み成果をあげた。前者は活字として設定された既製書体をサイン情報の文字として、高度な職人技で手を加え昇華させたのにたいし、後者はLEDの文字のアウトラインを輝度の精緻な調整を施し文字の可読性および美しさを高めた。単なるグラフィック/タイポグラフィデザインの領域を越えた、情報デザインとしての文字のコントロール化ということでは、両作品とも奥の深い力技を見た気がした。同じように準優秀賞の「丸善丸の内本店」、奨励賞の「三分一湧水館散策路」のサインシステムのストイックで高度なデザイン表現に、昨今のアイデアばかりの派手派手しい、薄っぺらなデザインをはるかに凌駕する凄みを感じ、現代の情報デザインの成熟さを感じとることができた。あわせて目に見えない情報をサイン化したという作品は今年度は乏しく、今後を期待したい。
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